2012 Fiscal Year Research-status Report
フランス近現代における知的伝統としてのネオ・ジャクソニスム的発想の研究
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23520401
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
田母神 顯二郎 明治大学, 文学部, 教授 (30318662)
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Keywords | アンリ・ミショー / ピエール・ジャネ / メーヌ・ド・ビラン / アンリ・ベルグソン / 精神医学 / フランス思想 / マルセル・プルースト / フランス文学 |
Research Abstract |
平成24年度は、これまで中心的に研究してきたピエール・ジャネ、マルセル・プルースト、アンリ・ミショーにおけるネオ・ジャクソニスム的傾向ををさらに掘り下げると共に、メーヌ・ド・ビラン、アルチュール・ランボー、ウジェーヌ・ミンコウスキー、モーリス・メルロ=ポンティ、サミュエル・ベケットらのテクストにまで範囲を広げ、そのネオ・ジャクソニスム的傾向(あるいは反・ネオ・ジャクソニスム的傾向)を研究した。これにより、本研究の目標であるフランスにおける新たな<知の系統図>の作成がさらに前進しただけでなく、ネオ・ジャクソニスム的傾向の変遷と多面性がより詳細に辿れるようになった。また、当初は予定していなかったローマン・ヤコブソンの失語症研究におけるジャクソニスムへの注目が視野に入ってきたことで、構造主義やラカン理論のジャクソニスム的観点からの分析も行えるようになったことは大きい。言語学や詩学、人類学も本研究の視野に入れられることになったからである。ちなみに、古人類学者アンドレ・ルロア=グーロンにおいてもジャクソニスム的傾向が確認でき、本研究の射程はいよいよ<一般理論>構築に向けての十分な広がりを持ち始めたと考える。 研究成果の公表としては、24年度は、まだミショーやジャネといった中核をなす対象についての論考を出したにとどまるが、25年度は、ビラン、ランボー、ミンコウスキー、メルロ=ポンティ、ベケット、ヤコブソンについても論考をまとめていきたい。なお、24年度中には公刊できなかったが、『記憶と実存』(本研究の前段階といえる平成20~22年度研究「フランス近現代文学におけるジャクソニスム的研究」の中間報告書)の英訳版、および研究代表者のミショー論が載った論文集(『ベルギー研究』、仮称、松籟社)が、25年度中に刊行される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<研究実績の概要>で述べた通り、本研究の基盤作業にあたる様々な思想家、作家のテクスト分析は、順調な進展を見せている。精神医学分野においては、メーヌ・ド・ビランに端を発し、モロー・ド・トゥール、バイヤルジェ、ジャクソン、リボー、ジャネ、ミンコウスキー、アンリ・エー、ジャン・ドレイといった精神医に受け継がれていく(ネオ)・ジャクソニスムの系譜がほぼ明らかになった。文学分野においては、ミショーとプルーストにおける(ネオ)・ジャクソニスム的傾向の分析がほぼ終了し、現在ボードレール、ランボー、ユイスマンス、ベケットといった作家のテクストを分析中である。また哲学分野においては、メーヌ・ド・ビラン、アンリ・ベルクソン、ジル・ドゥルーズについての分析が七割程度終了し、新たにモーリス・メルロ=ポンティのテクスト分析にとりかかっている。さらに、言語学、構造主義、ラカン理論、古人類学といった分野においても、ネオ・ジャクソニスム的傾向や反・ネオ・ジャクソニスム的傾向を議論できる見通しが立ったため、こちらの方面においても、分析を進め、論考を発表していきたいと考えている。 一方、当初の予定では、シンポジウムや講演会などの開催を一つの柱と考えていたが、3.11以降の様々な環境の変化、テクスト分析作業への重点の移動、および上記の『記憶と実存』の英訳版刊行計画の推進などに時間と労力を取られたこと、などの理由で、いまだ実現できていない。とはいえ、研究そのものは進展しているため、今後、当初考えていたものよりも質の高い企画を組んでいくことは可能であるし、また研究成果の社会への還元という点でも行わなくてはならないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度以降も、基本的な方針に変更はなく、資料収集とテクスト分析を中心に行いつつ、本研究の目標である、フランスにおける新たな<知の系譜図>作成に向けた作業を進めていきたい。ただし今年度は、最終年度を視野に入れつつ、研究の最終発表形態を明確にしたうえで、作業の優先順位を決めていきたい。具体的には、精神医学分野においては、補足的な資料分析を行いつつ、幾つかの予備的論考をまとめていく。文学分野においても、基本は同じであるが、特にボードレール、ベケットのテクスト分析に力を注ぎ、いくつかの論考にまとめたい。哲学分野については、、ビラン、ベルクソン、ドゥルーズに関する作業の完成を第一に目指す。同時にメルロ=ポンティ、サルトルらのテクスト分析も進展させたい。これらについても、いくつかの予備的論考をまとめていくつもりである。最後に、当初の予定になかった、言語学、構造主義、人類学におけるネオ・ジャクソニスム的傾向の研究は、とりあえず副次的な位置づけとし、他の作業を優先させたいと考えている。 一方、<達成度>の項目にも記したシンポジウムや講演会などの企画も、今年度からは前進させたいと考えている。また23、24年度は、学部の役職につくなど校務の負担が増大したため、国内外の精神医療関連施設やアール・ブリュット関係の美術館などへの訪問が限られてしまったが、本年度はやや負担が軽減したため、改めて推進したいと考えている。いずれにせよ、最終的には、単著もしくは共著の形での著作ないし論文集の作成を目指している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度においては、引き続き、テクストや資料の収集と分析、およびその成果を論考等の形でまとめあげていく作業がひとつの柱となる。このため書籍代を中心とした物品費の占める割合が、25年度においても5割近くになる予定である。具体的には、ビラン、ベルクソン、フロイト、ユング、メルロ=ポンティ、サルトル、ラカン、ドゥルーズ、ガタリ、ユイスマンス、デュラス、ヤコブソンおよび構造主義関係の資料、そして<精神暗部の探求>と関連する画家の美術書が中心になると想定している。また、25年度は、大学の夏期休暇期間を利用して、フランスおよびその周辺国における精神医療施設の視察と資料収集のための海外出張を計画している。候補としては、スイスのローザンヌにある「アール・ブリュット・コレクション」、チューリッヒのブロイラーゆかりの精神医療施設、グルノーブルの医学史博物館、コルマールやドイツのカールスルーエにあるグリューネヴァルト関係の美術施設、ベルギーのミショー関係の施設などを現時点では考えている。また、「狂気」を描いた画家として知られるヒエロニムス・ボス関係の美術施設や精神医療先進国と言われるイタリアの施設も訪問できたらと考えている。いずれにしても、これらに関わる費用が、全体の3割強になるのではないかと計算している。その他のものとしては、学術雑誌への投稿費、学術成果の英訳出版に付随する諸経費(ネイティヴ・チェックの謝礼など)、印刷代(コピー代など)を予定している。
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