2012 Fiscal Year Research-status Report
フローベールと身体―文学作品を通した新たな身体知の構築に向けて
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23520402
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
菅谷 憲興 立教大学, 文学部, 教授 (50318680)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
和田 光昌 西南学院大学, 文学部, 教授 (30299523)
山崎 敦 中京大学, 国際教養学部, 准教授 (70510791)
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Keywords | フランス文学 / 身体 / 思想史 / 文献学 / 国際研究者交流 / フランス |
Research Abstract |
平成24年度は前年度に引き続き、フローベールを主な対象に「フィクションと身体性」のテーマに関して、各人がそれぞれのコーパスを深く読み込み、さらにその成果を可能な限り理論化することに努めた。 具体的には、『ブヴァールとペキュシェ』については、菅谷が医学史、和田が教育学史、山崎が哲学史との関連から、前年度に解読・転写したフローベールの草稿および読書ノートのより詳細な分析を行った。同時代の身体にかかわる知とフローベールのテクストを照合させることによって明らかになったのは、小説という言語による芸術作品が、きわめて雑多な要素をその内部に含みこみながらも、最終的にはそれ自体が一つの自律した構造体であることを志向しているということである。このような文学作品のあり方を普遍的なものとみなすのではなく、十九世紀という時代と結びついた歴史性の現れと捉えるのが本研究の立場であるが、研究代表者・分担者3名による実証的な作業によりこの仮説をある程度まで裏付けることができたと思われる。 また、本研究の射程を広げるべく、平成24年度は2名の研究協力者を招聘し、12月に二つの公開講演会を開催した。立教大学では東京大学名誉教授の蓮實重彦氏にフィクションについて、ジョンズ・ホプキンス大学教授のジャック・ネーフ氏に沈黙や感覚と結びついた身体性について講演していただいた。西南学院大学ではネーフ氏に、テクストがいかに身体を描出し、「見せる」ことができるかについて、フローベールを中心とした文学と19世紀絵画との関連からセミナー形式で話していただいた。どちらの催しも盛況で、学術的にも大いに意義のあるものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、本研究の2年目に当たる平成24年度は、前年度に行った基礎的な文献調査を踏まえて、それを十分な理論性を備えた研究成果として練り上げることに専念した。そのために特に重視したのが、国際的な学術的催しにおける研究成果の発表、およびフランスを中心とした専門家たちとの積極的な学術交流・意見交換である。具体的には、6月に行われたパリ・高等師範学校でのシンポジウムには菅谷・山崎が、3月に行われたルーアン大学でのシンポジウムには和田が、また同じく3月にパリの国立図書館および国立古文書館で行われたシンポジウムには菅谷・山崎がそれぞれ参加し、これまでの研究成果の一端を披露して、現地の研究者たちと議論を交わした。このうち、6月のシンポジウムの発表はすでに出版されており、3月の二つのシンポジウムも2014年度中には出版される予定である。以上の理由により、まずは順調に研究計画が進展しているといえるだろう。 また、上記「研究実績の概要」においても述べたように、12月には海外および国内の研究者計2名を招聘して、本研究の主催による公開講演会およびセミナーを行った。特に立教での講演は、その後日本語訳を文芸誌に掲載したが、その内容は新聞の文芸時評でも取り上げられるなど、フランス文学の専門家の枠を超えた広い読者層からの大きな反響を得たことを特記しておきたい。論文のフランス語原文については、西南学院大学におけるセミナーの内容とあわせて、フランス語の媒体での発表を考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は本研究の最終年に当たり、これまでの研究成果をまとめる作業が中心になる。研究代表者・分担者3名とも、これまでにも国際シンポジウムでの発表や議論など、様々な機会を使って広く成果を発信するよう努めてきた。さらに最終年度は、各人が本研究の成果を新たに一つの論文にして、それらを何らかの形でまとめて発表・刊行したいと考えている。扱うテーマについては、菅谷は、生気論から進化論へといたる十九世紀の生についての理論がもつ哲学的射程を明らかにした上で、それらとフローベールの小説美学との同時代性について考察したい。和田は、フローベール作品にみられる子どもの身体表象に着目し、大人によって読み解かれ、方向づけされながらも、それに抗う子どもの身体を描き出すエクリチュールの中に、身体性をめぐる文学と知の対立を見出し、読解する作業を試みたい。山崎は、折衷主義者たちによって七月王政期に制度化された「哲学史」というディシプリンの思想史的意義を再検討した上で、それがフローベールの小説にいかなる痕跡を留めているのかを明らかにしたい。これらの論考を発表する媒体に関しては、大学の紀要、あるいはフランスの電子雑誌など学術的な媒体を予定している。今まで以上に共同作業的な部分が多くなることが予想されるが、Eメールその他を用いて日常的な連絡を密にし、お互いのアイディアや意見の交換を心掛けたい。また少なくとも年に3回は打ち合わせの機会を持ち、本研究の成果について共通の認識を形作りたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、平成24年度に使用しなかった繰越金については、その一部をフランスでの資料調査のための旅費として用いる予定である。最終年度ではあるが、夏休みや秋休みを利用して、フランス国立図書館などで文献調査を行いたい。加えて、以前から親しい関係にある国際的な研究者のネットワークとの交流を、さらに積極的に図っていきたい。また、残りの繰越金および平成25年度分として請求した助成金に関しては、十九世紀フランス文学・思想史関係の書籍の購入に充てるのはもちろんのこと、「今後の推進方策」に記した研究成果の発表・出版のための印刷費として用いることも考えている。他にも打ち合わせのための国内旅費など、いずれにせよ、最終年度は研究成果の取りまとめが中心的な課題となるため、研究費もそれに合わせて使用していくことになる。
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Research Products
(12 results)