2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520405
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
神尾 達之 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (60152849)
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Keywords | 感染 / 表象 |
Research Abstract |
本年度は1980年代半ばから1990年代初頭までの《感染》について分析した。《感染》が医学用語からいわばスピンオフし表象として拡散することになったのは、HIVの感染がエイズという名称で流通するようになった1980年代後半以降であった。1987年には、『現代思想』が臨時増刊号として「AIDS アイデンティティの病い」を特集し、同年、高橋敏夫/柏木博『文化としてのエイズ : 身体・メディア・権力』が出版された。翌1988年にはS.ソンタグの『エイズとその隠喩』に刊行された(邦訳は1990年)。フランスでもE.ギベールの『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』が1990年に出版された(邦訳は1992年)。 免疫不全は自他の境界線を無効にすることから、自己の身体的なアイデンティティがまず問題化した。身体的なレベルへの関心は、エイズの主たる原因の一つとして性行為がクローズアップされたことで、さらに強くなった。HIウイルス感染者の多くは、他者との避妊具をつけない直接的な接合を経験していたからである。また、エイズに倒れた者の多くは、当時の社会においてまだ異端視されていた同性愛者であった。エイズは少なくとも以上の三点からすぐれて《他者性》を含意する病だったのだ。 1987年3月26日づけ『朝日新聞』の夕刊には、「エイズ外人の入国拒否、感染広げる危険者に限定 予防法最終」というタイトルの記事が掲載されたが、ここではエイズと外国人との結び付けが示唆されている。直接的にはエイズを扱っていないものの、“Etrangers“という《他者性》を中心的なテーマとしたJ.クリステヴァの『外国人―我らの内なるもの』が出版されたのも、1988年のことだった(邦訳は1990年)。 1990年代にはいると、エイズという表象はメディアをいわば免疫不全にし、いわゆるサブカルチャーの領域にまだ浸潤することになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はおそらく論文として成果を発表するところまでは行かないだろう。時系列に沿ったかたちの報告書は提出できるかもしれないが、《表象》の《感染》のプロセスを全体として描き出したいので、報告書のかたちでの発表は意味がないからである。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度の後半からは、1990年代の分析に入る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在、世界的に《感染》が問題になっている。《他者性》の病であったエイズではなく、類を越境する感染症が新たな《表象》を生み出している。書籍やDVDなどとして流通するそれらのデータの購入に研究費をあてることになるだろう。
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