2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520405
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
神尾 達之 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (60152849)
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Keywords | 感染 / 身体表象 / 他者 |
Research Abstract |
1980年代の終わり、エイズは感染症の一例であるにとどまらず、他者性の病として表象化されることになった。1990年代に入ると、《感染》はまずサブカルチャーの領域でヒトの他者のイメージとなってあらわれた。1990年代の前半、ほぼ5年間、二つのマンガが並走するかのように連載された。楳図かずお『14歳』と岩明均『寄生獣』である。他者への恐怖は、ヒトの身体を蹂躙し、ヒトの身体を占有する生物のかたちをとる。二つの作品の連載が終了した1995年には瀬名秀明『パラサイト・イヴ』が発表される。この小説では、ヒトに内在しているミトコンドリアが他者となる。『パラサイト・イヴ』は小説として発表された後、1997年には映画化され、1998年にはプレイステーション用のゲームにも変異していく。 エイズは、1990年代の前半、医学の領域でも他者性を前景化する。1993年に出版された多田富雄『免疫の意味論』は、生体の自己と非自己の区別を免疫から説明する。免疫とは自分に属さない他者を排除し、自己のアイデンティティを維持する働きであるからだ。その翌年、1994年には藤田紘一郎『笑うカイチュウ 寄生虫博士奮闘記』が出版されたが、これをきっかけにして、体内の他者である寄生虫がブームになる。藤田は他者である寄生虫との共存こそが、花粉症などのアレルギー反応を予防すると主張する。 HIウイルスが発見された数年後、1986年には「Brain」と呼ばれる最初のコンピュータ・ウイルスが発見された。1990年代にはコンピュータ・ウイルスが蔓延し、次々に新しいウイルス対策ソフトが開発されていった。1995年以降はインターネット接続が容易になり、ウイルスが加速度的に蔓延した。 サブカルチャー、医学、テクノロジーにおける《感染》の表象は、1998年に発表された村上龍『共生虫』で合流をはたす。《感染》がウイルスの《感染》ではなく、《感染》の表象であったがゆえに可能になった現象である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度末まで、研究分担者として科学研究費・基盤研究C(一般)「複合文化学の方法の構築」(研究代表者:福田育弘)に参画していた。当該研究は昨年度で終了したので、本年度からは、本研究に集中することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、2000年代を対象にして研究を進め、それをもって十年ごとに区切ったかたちでのリサーチを終える。最終年度にはそれらを総括できるように準備する。
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