2011 Fiscal Year Research-status Report
グリム兄弟におけるドイツ・ロマン派の連続性と変容―イメージとテクストの協働
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23520411
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
村山 功光 関西学院大学, 文学部, 准教授 (20460016)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | グリム兄弟 / ドイツ・ロマン派 / フィリップ・オットー・ルンゲ / 近代批判 / ユートピア思想 / イメージ研究 / 自然観 / メールヒェン |
Research Abstract |
画家P.O.ルンゲの画業に関する文献のほか、彼が影響を受けた神秘主義思想家J.ベーメ、ドイツ観念論哲学者シェリング、初期ロマン派の詩人(L.ティーク、ノヴァーリス)、ロマン主義の画家C.D.フリードリヒ、さらに風景画の歴史・理論に関する書籍などを購入し、これらを読み解いてルンゲが提唱した〈新しい風景画〉の構想を多角的に明らかにしようと試みた(継続中)。というのも、この概念はグリム兄弟が〈メールヒェン集〉によって提示したユートピア思想と通底していると考えるからだ。従来のメールヒェン集編著者とは異なり、グリム兄弟は近代の弊害を批判する鏡として子ども・女性・植物・神性といったルンゲ絵画にも特徴的なイメージ群をアラベスクのように配置して描き込んだ〈新しい風景〉を提示したのだ。イメージ群に注目して思想をイコノロジー的視点から解明する手がかりが掴めつつある。 昨夏ドイツに行き、ルンゲ作品を多数所蔵するハンブルクの美術館とミュンヒェンでの大規模なルンゲ回顧展を訪ねることができたことは、思想とイメージの相互作用を考えるために非常に有益だった。また、ハンブルク大学美術史学科図書館およびクンストハレ美術館資料室でルンゲ関係の希少な資料を収集することができた。さらに、フランクフルト大学にH.-H.エーヴァース教授を訪ね、意見交換した。当研究の成果の一部は、2012年12月に開催される〈『グリム童話集』出版200年シンポジウム〉(エーヴァース教授他主催)で発表する予定だ。 グリム兄弟以前のメールヒェン集との比較を通じて、兄弟の文学観の革新性を明らかにした。ギリシア・ローマ以来の〈楽しませつつ教える〉効用や道徳教育への実用性を主張する伝統から離れ、メールヒェン文学そのものを自然(さらに神)に結び付け、これを(いわば風景の中に入り込むように)心身全体で体験することが重視されていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ルンゲおよびドイツ・ロマン派の絵画を実地に見学し、画家の技法・全体像を把握することができた。それにより、抽象的に捉えがちだったロマン派芸術論を具体的・立体的に理解可能となった。今まで漠然と感じていたグリム兄弟の〈風景〉像とルンゲの芸術実践・理論の関係を、確信をもって追究する基盤ができた。モチーフの選択やフレーミングの仕方だけでなく、自己の仕事の革新性を自覚する歴史意識、現状改革的ユートピア志向の点で両者が共通していることが明瞭になった。 ロマン派に共通する歴史哲学的近代批判を、個々の詩人・思想家が用いるさまざまなイメージに注目し、そこに見られる共通性と相違を分析する作業に着手した。〈共通性〉は1800年期の普遍的閉塞感・解放希求を探る手立てとなるし、〈相違〉は後の時代に影響を及ぼすことになるドイツ・ロマン派の革新性と保守性、魅力と危険を解明する契機ともなろう。思想は具体的イメージを用いると同時に、イメージによって逆に規定されもする。イメージは思想に具象性を与えるが、複数の解釈を許容しもする。この微妙な相互関係を追求する基礎固めができた。 『グリム童話集』をそれ以前のメールヒェン集(ペロー、ムゼーウス、ビュッシング、A.L.グリム)と比較考察し、グリム兄弟の文学観の特異性を解明した。特に、一般にはナショナリスティックな方向で捉えられているグリム兄弟の普遍的・抽象的文学観(〈ドイツ〉に特化せず全人類を対象にする)が、初期ロマン派の志向と軌を一にしていることが確認できた。 また、エーヴァース教授とはグリム兄弟のロマン主義内部および児童文学史における位置をテーマに定期的に意見交換を続けることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年12月にカッセルで開催される〈『グリム童話集』出版200年シンポジウム〉に出席し、「P.O.ルンゲとグリム兄弟における〈新しい風景〉」(仮題)について発表する。また、これを機会に世界各地から参加するグリム兄弟・ロマン主義研究者と意見交換を行いたい。 夏季休暇(可能ならば春季休暇も)を利用し、フランクフルト大学児童文学研究所で18世紀後半-19世紀前半の児童文学およびメールヒェン集の表紙・挿絵に表象された子ども・自然の図像を調査する。フランクフルトでは、エーヴァース教授とグリム兄弟およびロマン主義における〈幼年期ユートピア〉をテーマとした研究の打ち合わせをする。特に、エーヴァース教授が共同編集者を務める『児童文学研究年鑑』に本研究の成果を発表することを目標にしている。 グリム兄弟およびロマン派の思想を理解するための鍵概念として、Natur((1)外界の自然、(2)人間の本性)とVolk((1)民衆、(2)民族)を考察対象とする。この二つの概念が内包する二重(三重)の意味のズレを分析し、それらの組み合わせが人類一般・普遍傾向から民族・国粋主義に至るまでさまざまな志向性を許容する曖昧さを解明する。その際には、ヘルダー、ゲーテ、シェリング、シュレーゲル兄弟、ノヴァーリス、ティーク、ゲレス、グリム兄弟においてこの二つの概念がどのようなイメージに依拠して用いられているかに焦点を当てる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度は、2(3)回のドイツ渡航を計画している。まず、12月に開かれる〈『グリム童話集』出版200年シンポジウム〉に参加し本研究の成果を発表するためにカッセルに行く。 また、2012年8月に(可能ならば2013年3月にも)フランクフルト大学児童文学研究所(所長:エーヴァース教授)で、18世期後半から19世紀前半にかけての児童文学書の表紙銅板画・挿絵に描かれた子どものイメージを網羅的に調査する。 購入する研究資料としては、図像解釈の理論および実践、風景画史、18世紀・19世紀メールヒェン集の復刻版、イメージ・シンボル関係の事典類、グリム兄弟およびロマン主義研究の新刊書などを計画している。
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