2012 Fiscal Year Research-status Report
戦後の少年少女向け翻訳叢書にみる「西洋」と「東洋」――教養形成の追究
Project/Area Number |
23520418
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐藤 宗子 千葉大学, 教育学部, 教授 (40154108)
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Keywords | 比較文学 / 児童文学 / 少年少女 / 翻訳 / 教養 |
Research Abstract |
1 大阪府立中央図書館国際児童文学館等で資料調査および資料収集を行った。講談社の複数の翻訳叢書を主な対象とした。次年度以降さらに詳しい検討を行っていきたい。また購入した書籍をもとに、近代の翻訳状況等について問題把握を継続中である。 2 2012年7月に日本イギリス児童文学会西日本支部で講演を行った。8月には第11回アジア児童文学大会で口頭発表を行った。それぞれの内容は下記の収録論考に示す。 3 7月の講演をもとにまとめた論考を所属学部の紀要に発表した。要約すると、小学館「少年少女世界の名作文学」は、先行する二つの「地域割り」叢書の形式を受け継ぐが、内容と外観の双方でかなり異なる。一般文学からの作品収録が多い半面、いわゆる「和文和訳」の方式の多用がもたらす弊害が生じていること、表紙を飾るカラーの泰西画群が形成する別種の「教養」が想定されていることなどが特徴である。またこうした形態の叢書の出現が、児童文学が産業として発展していく中で見られる点も注目される。 また8月の発表内容は同大会の論集に収録された。要約すると、1950年代の「地域割り」二叢書における「東洋」把握は、一方では「東洋」の古い伝統文化に対する客観的で学術的な態度に基づき、他方20世紀前半の文学革命後かつ新中国成立後の状況に対する主観的で情緒的な態度に基づく。それは、西洋における「東洋学」の伝統の移入と、深く長い日中関係を相対化しようとする意識の分裂がそのまま、少年少女向けの翻訳作品群に反映した証とみえる。 さらに『世界文学総合目録』第10巻に論考が収録された。要約すると、1960年代から70年代、「少年少女」読者は解体する一方で翻訳全集に対する期待も変化し、全員が共有しうる「読書の源泉」=「教養」という考え方が破綻する中で、画期的で新鮮なものたりえた「世界」を「地域割り」にした翻訳叢書が役割を終えたものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、当初予定していた程度の資料調査や資料収集を、大阪府立中央図書館国際児童文学館への出張を中心に、進めることができた。次に、研究テーマに関連する文献を購入し、必要な物品の整備を図ることができた。さらに、国内、国際両方の学会の場で、講演や口頭発表の機会を得ることで、調査結果に対する様々な反応を知ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
従来の研究成果をもとにしながら、すでに収集してきた資料についてもあらたに「東洋」と「西洋」の観点から洗い直していくことは進めつつ、他方、1960年代に学校図書館向け雑誌に掲載された少年少女向け叢書に関するデータや評論をもとに、当時の児童文学状況全体の中における翻訳叢書の意味や意義を追究し、児童文学における「教養」形成の状況を明らかにしていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、7月にフランスで開催される国際比較文学会パリ大会に、発表を申し込んで受理されている。このための出張旅費に使用を予定している。その状況を見極めたうえで、可能ならば専門施設である大阪府立中央図書館での資料調査を行ったり、必要な文献の収集にあてたりしたいと考えている。
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