2013 Fiscal Year Research-status Report
戦後の少年少女向け翻訳叢書にみる「西洋」と「東洋」――教養形成の追究
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23520418
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐藤 宗子 千葉大学, 教育学部, 教授 (40154108)
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Keywords | 比較文学 / 児童文学 / 少年少女 / 翻訳 / 教養 |
Research Abstract |
1 国立国会図書館等で資料調査および資料収集を行った。1960年代の学校図書館関係の雑誌や少年少女向け叢書の調査を中心とした。また購入した書籍をもとに、出版状況と「教養」の関係について問題把握を継続中である。 2 2013年7月に開催された第20回国際比較文学会パリ大会に出席し、研究発表を行った。これは従来の研究成果をもとに、広く海外の比較文学研究者を聴衆対象とした英語による発表である。内容を要約すると、20世紀後半の1950-70年代の日本の児童文学界では翻訳叢書が隆盛を極めたこと、それらの多くは「世界」全体を把握し少年少女読者の「教養」形成に資する意図があったこと、その際の海外作品のの選択に「西洋」と「東洋」で差異があったこと、背景に明治以降の日本社会全体における西洋文化受容の問題が潜むこと等の指摘をした。 3 2014年3月に、所属する学部の紀要に、講談社「世界の名作図書館」を検討した論考を発表した。要約は以下のとおりである。1966年刊行開始の講談社「世界の名作図書館」は、第二次大戦後の先行するいくつかの叢書に見られた「地域割り」の構成をとらず、新たな区分――8つの「領域」を立てるという方式を採用した。同時に、収録作品はフィクションにとどまらず、伝記やノンフィクションを相当数含むものとなった。収録作品の傾向や翻訳のされ方、企画当初との変更から推測される翻訳事情、監修者の選定やカラーワイド豪華版の造本、配本開始から半年ほど付された巻末「解説」と「読書指導の手引き」、刊行当初に作製された別冊子等にも目を向けるなかで、本叢書が高度経済成長の只中で、一般家庭の母親を強く媒介者として明確に意識したこと、当時の関連雑誌に掲載された論考との関連の中で、翻訳をめぐる議論が種々かわされたことを確認するとともに、「世界」および「教養」の意識が、大きく変貌した様子を時代状況の中で捉えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年7月にフランスで開催された第20回国際比較文学会パリ大会で、これまでの研究成果をもとに1950-70年代の少年少女向け翻訳叢書の内容について研究発表を行い、会場の参加者から反応を得ることができた。国内での資料調査は国立国会図書館や国際子ども図書館を中心に行い、また「教養」関係の新刊等必要な資料を購入することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
従来の研究成果をもとにしながら、1960年代を中心にした少年少女向け叢書そのものに対する意識と、当時の「翻訳」にかかわる意識のあり方を幅広く把握することに努め、状況整理をしていく。その中で、児童文学状況全体にの中における翻訳叢書の位置づけや意味を浮き彫りにしながら、児童文学における「教養」形成と「翻訳」の関係を明らかにしていきたい。
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