2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520420
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
星名 宏修 一橋大学, 言語社会研究科, 准教授 (00284943)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 海外進出 / 占領 / 「親日」 / 台湾 / 中国語文学 |
Research Abstract |
1937年以後の台湾では皇民化政策によって中国語が抑圧され、「国語」(日本語)が文学の創作言語として中心的な位置を占めるようになる。しかし抑圧された中国語によって大東亜戦争を翼賛した雑誌『南方』の存在は、従来の戦時期の台湾文学に対する認識を転換させるものである。 本研究課題は『南方』雑誌を、当時の主流であった「国語」文芸誌の動向を視野に入れつつ分析することを目的としている。同誌には日本が占領した中国諸都市に関する記述がたびたび登場するが、平成23年度においては、台湾人にとっての中国進出の意味を問うた論文「「海外進出」とは何だったのか-紺谷淑藻郎「海口印象記」を読む」(陳建忠主編『跨国的殖民記憶與冷戦経験-台湾文学的比較文学研究』、清華大学台湾文学研究所)を執筆した。この論文は、火野葦平の海南島ルポルタージュと『台湾文学』に掲載された紺谷淑藻郎の「海口印象記」を同時並行的に読むことで、海南島における台湾人の姿を検討したものである。 また「「跳舞時代」の時代-台湾文学研究の角度から」(星野幸代・洪郁如・薛化元・黄英哲編『台湾映画表象の現在-可視と不可視のあいだ』、あるむ)は、プレ戦時期ともいえる1930年代前半の台湾のモダンな文化現象を論じつつ、台湾で評判になったドキュメンタリー「跳舞時代」が、30年代の都市化・大衆化の華やかな側面を描くのに急なあまり、そこからは抜け落ちてしまった同時期の階級問題について論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の中心的な課題となる『南方』雑誌の分析はまだこれから本格的に行うことになるが、同誌を考察するうえで大きな背景となる台湾人の中国進出に関しては、既述の論文執筆によってかなり明確になったと考えている。論文「「海外進出」とは何だったのか」は、戦時期を代表する「国語」文芸誌である『台湾文学』に掲載された作品を対象としており、『南方』雑誌を同時代の「国語」文芸誌の動向を視野に入れつつ分析するという切り口に合致したものとなっている。 また今年の3月24日に台湾政治大学台湾史研究所が主催した第五屆台湾史青年学者国際学術研討会の場で、『風月報』や『南方』に掲載された探偵小説を論じた王品涵の「早夭的偵探-台湾漢文偵探小説発展歴程及叙事実践」のコメンテーターを担当したことによって、探偵小説という限定的なジャンルではあるものの、最先端の『南方』研究に触れることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは『南方』雑誌の分析に取り組むと同時に、上海や北京で刊行された「親日」雑誌の収集にも着手する。 すでに述べたように、『南方』には日本占領下の上海に関する記述や作品がたびたび登場する。上海で刊行された『文友』や北京の『華文大阪毎日』など「親日」雑誌の収集に力を入れ、その読み込みを始める。これらの雑誌には「和平文学」「大東亜文学」など、今日では否定的に言及される作品群が掲載されているが、そうした作品と台湾で刊行された『南方』の中国語による戦争翼賛文学を対比・検討することで、植民地期台湾の戦時期文学の全体像を把握したいと考えている。 また、『南方』以外に発表された台湾における中国語作品の分析のために、『日治時期台湾小説彙編』から作品を収集し分析を行うことも重要である。これらの作品分析にあたっては、『南方』の諸作品を扱う時と同じように、同時期の『文芸台湾』や『台湾文学』などの「国語」メディアで展開された戦争翼賛の言説を参照しながら読み込んでいく。 さらには近年台湾で盛んなオーラル・ヒストリーの研究成果を活用することで、台湾人の戦時期の生活はもちろん、南洋や上海などの海外体験に関しても新しい知見を得たいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
戦争期の中国語文学の諸相を明らかにするためには、日本や台湾における資料収集が不可欠である。平成24年度は、『文友』『華文大阪毎日』など中国大陸での「親日」雑誌の収集および分析に力を入れるため、関連書籍の購入や雑誌の複写を行う。さらに台湾大学図書館や国立中央図書館台湾分館などでの資料収集は、平成24年度も継続的に行う必要がある。 なお台湾で刊行された戦時期の中国語雑誌の収集に時間がかかり、平成23年度の予算による購入を断念したため、本来の執行計画とは若干の差額が生じた。平成24年度以降、早めに入手し、研究に支障のないようにつとめたい。 また研究成果の一端を10月に神戸大学で開催される「戦争と女性」をテーマとする国際シンポジウムで発表を行うため、そのための旅費も計上したい。
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Research Products
(2 results)