2011 Fiscal Year Research-status Report
中国浙江省農村に生きる口承文藝―泰順と舟山の布袋木偶戯比較研究
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23520422
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
橋谷 英子 (馬場 英子) 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (80189513)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 布袋戯 / 一人遣い人形芝居 / 中国舟山群島 / 中国蒼南県 / 「粉粧楼」 |
Research Abstract |
今年度の調査はすべて中央大学非常勤講師瀬田充子氏の協力を得て、二人で行った。8月12日から19日に舟山を訪ねた。舟山を代表する一人遣い人形芝居(布袋戯)の一座侯家班に「郭子儀」戯の続きを三日間上演してもらい、録画記録を作成した。侯家班の主伴奏で、二胡の名手として名高かった顧国芳氏が9月に急逝されたため、従来の侯家班としては、これが最後の上演で、貴重な記録となった。中国では6月に、外国人の調査はすべて許可申請を要するとする非物質文化遺産保護に関する法律が施行されたため、地元の文化館館長に協力を要請していた泰順での調査は、予定通りの実施が難しくなった。9月6日から13日、温州地区を訪ねた。泰順県を管轄する温州地区の民間文芸家協会会長潘一鋼氏の助言を受け、とりあえず今年度は温州大学の協力を得られる蒼南県に調査地を変更することにした。蒼南県で予備調査をして、今後の調整を行った。2月10日から19日に蒼南県に行き、一人遣い布袋戯で「粉粧楼」全編を4日間一日二場約5時間ずつで上演してもらい、録画記録を作成した。「粉粧楼」は舟山の侯家班の上演記録をすでに一部所持しているので、比較研究の材料を得ることができた。蒼南県郊外の村の廟で上演してもらったので、多い時は60人以上の村人が観劇に訪れた。子どもははしゃぎ、出店も出て、芝居を楽しむコミュニティーがここではまだ生きていることを確認できた。また上演の前後には巨大な爆竹が鳴らされ、田公元帥と呼ばれる芝居の神さまが民衆を教化する言葉を幕間に述べることも確認できた。ビン南語による上演をはじめ、福建の人形芝居との関係、糸操り人形との関係、温州の他の芸能との関係についても基礎的知見を得ることができた。舟山との上演形態の違いも確認した。3月には瀬田充子氏と今年度の調査の総括を行い、特に「粉粧楼」については、原作の小説との比較検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東日本大震災による予算措置で、使用できる研究費が当初制限されたため、夏季の調査日程を一部短縮した。人形芝居が最も盛んに上演されるのは、春節後5日目から元宵節までで、人々の暮らしに生きる人形芝居の状況を把握するためには、この時期の調査が必須であるが、今年度は春節が1月25日と早かったため、授業期間中で出張に出られず、残念ながらこの貴重なチャンスを生かせなかった。中国で非物質文化遺産保護に関する法律が施行され、外国人の調査は許可申請が必要になったため、23年度は泰順県での調査はあきらめ、代わりに温州大学の協力を得て蒼南県に調査地を変更した。研究対象とする一人遣い人形芝居が盛んな隣県同士で、研究対象として大差はないが、ただ蒼南県では、新たに「郭子儀」戯を演じる芸人を見つけだすことができなかったので、演目を変更して「粉粧楼」を上演してもらった。幸い「粉粧楼」も舟山での上演記録があり、比較検討は行えるし、蒼南では全編上演してもらえたので、作品全体の構成などについても考察でき、予定外ではあったが、とてもよい資料を得ることができた。春節時期を逃したが、蒼南県では、村の廟で上演してもらったので、村人と人形芝居の関係も十分に観察できた。現地語通訳として紹介してもらった温州大学の女子学生も優秀で、こちらの要求をよく理解して的確なメモを作成してくれたので、十分な考察を行うことができた。今回施行された法律は、一部の関係者にしかまだ知られていないが、厳格に施行された場合には、来年度以降の調査の実施が今回以上に困難になるかもしれない。不安は感じるが、舟山と泰順(蒼南)の一人遣い人形芝居の比較研究という当初の目的を達成するための基本資料は、収集できたので一年目の研究としては、おおむね満足している。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に続き、二年目も中央大学非常勤講師瀬田充子氏に調査の協力を依頼する。舟山では、「郭子儀」戯を引き続き上演してもらう。前任者顧国芳氏の死亡により、指揮役の主伴奏が変更となった後、上演にどのような変化がみられるのか、上演に及ぼす主伴奏(指揮者)の力についても検討する。蒼南で上演してもらった「粉粧楼」について、侯家班の上演では、いまだ記録のない部分、特に首を売り歩く場面について、侯家班に演じてもらい、蒼南県のものと表現の違いなど詳細に比較検討する。また今年度、従来、舟山群島内では数十年前に消失したといわれていた篇担戯(伴奏も含め、すべて一人で演じる布袋戯で、道具一式が天秤棒で担げるほどの大きさのもの)演者が、なお一人いる、という新たな情報を得たので、連絡をつけて、演目その他について、聞き取り調査を行う。これにより、舟山の布袋戯発展の歴史について、新たな展開が開けると期待する。蒼南地区では、前回とは別の芸人にも得意とする演目をやはり4日間演じてもらう。状況が許せば、泰順にも出かけ、一人遣い布袋戯の調査を行い、上演を録画する。あわせて糸操りの上演状況、演目についても調査し、同じ地区における二つの人形芝居の関係について検討する。講史の伝統が、どのように一人遣い人形芝居、布袋戯に残っているのか、舟山と温州地区蒼南と泰順の人形芝居はそれぞれどこから流伝してきたのかについても、現地で関係資料の収集、聞き取りに努める。現地の研究者、舟山民間文芸家協会会長張堅氏、温州博物館館長楊思好氏の協力を得て、検討を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の繰越金は全額、短縮した舟山での調査日程を二年目の調査日程に加えることで使用する。舟山調査は9月に実施する予定である。研究費は主に現地調査費に充てる。8月には、温州地区蒼南に行く。一人遣い人形芝居の調査を継続し、今年の調査結果の補充調査とする。今年度録画した「粉粧楼」の内容について、重要部分をビン南語から共通語である「普通話」に訳してもらう。適当な機会を見て、泰順での調査が可能かどうか確認し、非物質文化保護の法律に違反しない範囲で、泰順で調査を行う。さらに春節後、元宵節までの人形芝居上演が民間で最も盛んな期間は、来年度も職務の関係で本務校を離れることは非常に難しいが、現地の協力者を探すなど方策を講じて、蒼南、泰順での上演状況についての調査を実施する。6月、3月に瀬田充子氏と調査原稿整理の打ち合わせを行う。ほかに、舟山出身の留学生に、これまでに収集した舟山の郭子儀戯上演録画資料のうち、特に重要と思われる部分について文字原稿作成を依頼する謝金に使用する。
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