2011 Fiscal Year Research-status Report
日米現代文学にみる食言説と環境観に関する総合的研究
Project/Area Number |
23520424
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
結城 正美 金沢大学, 外国語教育研究センター, 教授 (50303699)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
Keywords | エコクリティシズム / 環境文学 / 食 / 汚染 |
Research Abstract |
本年度は、食をめぐる文学的表象の事例収集と分析を目標とし、日米の主に現代作品(とりわけ1960年以降の作品)を題材に、食風景や食べる行為をめぐる記述様式を分析した。また、福島第一原発事故後の食の汚染をめぐって文学、批評、マスメディアにおいてさまざまな見解が提示されたことから、汚染と食をめぐる言説に関する文学的反応も視野に入れて研究を進めた。 事例収集は現在も進行中であり体系的に未整理のところが少なくないが、汚染と食の言説に関する文学のレスポンスに関しては次のことを明らかにした。すなわち、現在一般に共有されているような〈汚染されているから食べてはいけない〉という、汚染とリスクを結びつける考え方とはまったく異質な、〈汚染されていても食べる〉という論理が、1960年代から現在に至る一連の作品群に認められる、ということである。具体的には、石牟礼道子、加藤幸子、田口ランディの作品に、食べ物が汚染されているという科学的事実よりも食べ物を恩寵とみなす価値観がまさるような食の世界が描かれていることを明らかにした。そのような食をめぐる安全言説に対する文学的抵抗は、食の汚染をリスクの観点からのみとらえる傾向のある現代的価値観を相対化する視角を提供し、その根底にある人と環境との関係を問題化する契機となる。なお、以上の研究は、"Why Eat Toxic Food?: Mercury Poisoning, Minamata, and Literary Resistance to Risks of Food"と題した論考にまとめ、アメリカの文学・環境学会(ASLE)のジャーナルISLEに投稿し受理された。さらに、上述の石牟礼、田口をはじめとする作家にインタビューをおこない、言葉の世界の奥行きと広がりをめぐって新たな視点を獲得することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標である「食をめぐる文学的表象の事例収集と分析」を達成するために、次の4つの活動をおこなった。(1)本研究課題に必要な文献・資料の集中的・体系的収集、(2)食をめぐる表象の事例収集、(3)事例の整理と分析、(4)食をめぐる文学研究動向の調査、以上の4つである。このうち、(3)における事例の分析が若干滞っているが、そのほかは順調に進んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
食をめぐる文学的表象の事例収集と分析をおこなった本年度の研究成果にもとづき、次年度は食をめぐる社会的動向の調査を開始し、文学実践と社会的言説との比較をおこなう。そして、文学における食の記述様式や言説と、広告をはじめとするマスメディアや批評における食の言説との相違点や類似点を明らかにし、両者の交渉・抗争関係を検討する。その際、研究の成果や方向性を定期的に点検するために、国内外の関連学術集会で発表をおこない、フィードバックを得るよう努めたい。平成25年度以降は食をめぐる文学的ロジックの理論化に向けて研究を進める予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度に引き続き本研究課題に必要な文献・資料の購入・閲覧・借用費用を予算に計上するほか、次年度あらたに開始する広告や他のメディアにおける食の言説について調べる際に必要な調査費、資料整理と研究成果のプレゼンテーションに必要な機器を購入するための物品費を予定している。 また、研究成果を国内外の関連学術集会で発表し、そこで得られたフィードバックをもとに研究の点検をおこないたいと希望しているので、研究発表のための出張費(現時点では、ASLE-Japan/文学・環境学会全国大会(於 近畿大学)および英国日本文化協会(於 英国Norwich)での発表を予定している)を見込んでいる。さらに、本年度着手した、食をめぐる作品の分析とその書き手ての対話をとおして食と文学の関係を多角的に検討する企画の完成も目指しており、そのために必要な謝礼等も予算に計上する。
|