2012 Fiscal Year Research-status Report
日米現代文学にみる食言説と環境観に関する総合的研究
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23520424
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
結城 正美 金沢大学, 外国語教育研究センター, 教授 (50303699)
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Keywords | エコクリティシズム / 環境文学 / 食 / 石牟礼道子 / 水俣 / 森崎和江 / 田口ランディ / 梨木香歩 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、食をめぐる表象にみたる環境観や環境言説の分析をおこなうとともに、食をめぐる文学表象と同時代の社会的動向との関係を検証した。主な検討題材が1960年代以降の文学作品や環境言説(日本の石牟礼道子、森崎和江、田口ランディ、梨木香歩、アメリカのカウンターカルチャー期の食言説など)であり、それはちょうど環境言説において近代批判が強まる時代と合致するのだが、考察を進めるなかで、近代批判に回収されないかたちの新たな近代のとらえ方がある、ということが判った。すなわち、科学技術主義と資本主義にもとづく近代的価値観を批判的にとらえるというよりも、そのような近代を自らのうちに包み込む〈非近代〉的価値観が、とりわけ石牟礼道子、森崎和江、梨木香歩らの食をめぐる記述にうかがえるのである。近代/前近代という排他的対立図式とは根本的に異なる、近代と非近代(近代との異質性をもちつつ、近代に取って代わられるわけではないことから、「前近代」」ではなく「非近代」という言葉を本研究では強調的に用いている)の相互排他的ではない関係が幻視され、それにもとづき新たな近代観が言語的に創出されようとしているのである。 近代をめぐる新たな文学的リアリティが社会的価値体系にどのような作用をもちうるのか、という点にまでは論及できてはいないものの、そのような問題を考えるための立ち位置は明らかにできたと考える。これまでの研究成果は、『他火のほうへ――食と文学のインターフェイス』(水声社、2012年12月刊行)として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1960年代以降の食をめぐる文学表象と環境観との関係を研究する過程で、既に書かれて刊行されたテクストだけではなく、書き手の声(まだ言語化=概念化されていないかもしれない思念の種子としての声)にも着目する必要性があることを認識し、石牟礼道子、森崎和江、田口ランディ、梨木香歩の4名の作家にインタビューをおこなった。そして、各作家の食表象をインタビューと論考という二つのアプローチから検討した結果を、『他火のほうへーー食と文学のインターフェイス』(水声社、2012年12月刊行)として発表することができた。 本研究課題は、日米の食をめぐる文学表象を分析するものであるので、日本の現代作家4名に関する『他火のほうへ』の刊行は中間発表的意味合い以上のものはもたないが、それでも、研究機関の半ばで成果を出版することができたという事実は、当初の計画以上の進展を示していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの2年間は主に日本の文学作品を分析し、日本の社会動向との交渉/構想関係を検討してきたので、今後はアメリカの事例収集と分析に力を入れる。基本的には、資料の読み込みにもとづき研究を進める予定であるが、研究の方向性を点検するために国内外の関連学術集会に参加し、研究交流や発表をとおしてフィードバックを得るよう努めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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[Presentation] 境界の食風景2012
Author(s)
結城正美(企画&モデレーター)
Organizer
ASLE-Japan/文学・環境学会全国大会
Place of Presentation
近畿大学
Year and Date
20120831-20120901
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