2013 Fiscal Year Research-status Report
日米現代文学にみる食言説と環境観に関する総合的研究
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23520424
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
結城 正美 金沢大学, 外国語教育研究センター, 教授 (50303699)
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Keywords | エコクリティシズム / 環境文学 / 食 / 汚染の言説 / 比較文学 / 環境人文学 |
Research Abstract |
過去2年間に引き続き、食をめぐる文学的表象の事例収集を日米の作品からおこなうとともに、食をめぐる文学実践と社会的言説・動向との交渉・抗争関係を考察した。今年度の新たな目標は、そのような事例収集と考察にもとづいて食をめぐる文学的ロジックの理論化を試みることにあった。石牟礼道子『苦海浄土』を原型とするポスト水俣文学とよぶべき作品群(加藤幸子、田口ランディの作品など)の分析を初年度を中心におこなったが、そこで明らかになった、食べ物との親密な関係ゆえに汚染されているとわかっていてそれを食べるという行為の基底にある価値観に注目した文学実践が、汚染とリスクの問題をめぐる社会的言説(すなわち汚染されているものは危険だから食べてはいけないという見解)との違いを強調し、なおかつ現代社会の食の問題点をあぶり出していることから、汚染の言説と食を中心に据えたかたちで文学的ロジックの理論化に着手した。 その際、Ruth Ozekiの_My Year of Meats_や _All Over Creation_をはじめとする、食と汚染をテーマにしたアメリカの作品も視野に入れ、比較研究的アプローチによる分析を試みた。そして、食と汚染をテーマとする文学実践には、汚染されているものは危険だから食べてはいけないという見地を自明視し無批判に受け入れるのではなく、むしろそうした見地を相対化し現代社会の価値体系をクリティカルにとらえる契機が埋め込まれているという見解に至った。研究の過程でおこなった口頭発表も肯定的に受け入れられたことから、考察と分析は妥当であると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
汚染と食の問題に焦点を絞り込んだ上で、日米の作品分析にもとづき、食をめぐる文学的ロジックの理論化に取り組んだ。汚染されているものは危険だから食べてはいけない、という見地と相容れない、汚染されているとわかっていて食べるという世界観が現代社会に与えうる含意とインパクトを理論的に考察し、現代社会の価値体系をクリティカルにあぶり出す文学実践のあり方を明らかにした。この点は口頭発表ーー日本アメリカ文学会中部支部例会(2014年2月、富山大学)、環境思想シンポジウム(2014年3月、安藤百福センター(小諸))ーーをおこない、文学研究者ならびに環境言説にかかわる研究者から肯定的な評価を得た。 また、本研究課題の中間報告として出版した『他火のほうへーー食と文学のインターフェイス』(水声社、2012年)がアメリカのPalgrave Macmillan社より英訳出版される運びとなったことも、本研究の国外での評価の一指標になると思われるので、記しておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度はいよいよ最終年度である。本研究をより多角的に発展させるために、公開研究会をぜひ企画したい。チェルノブイリやフクシマの問題と絡めて汚染と食の領域に斬り込んでいる作家や、エコクリティシズムの理論化における第一人者を招聘し、研究者はもとより学生や一般の関心のある人びととともに、汚染と食の世界が映し出す価値観の交渉・抗争関係について考えていきたい。また、食の世界にみたる価値観の交渉・抗争についてはより洗練した理論化を目指し、事例研究と考察にさらに深く取り組む予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
出版情報を事前に得ていた研究書等の書籍が年度内に出版されず、図書費に充てる予定であった予算が結果的に未使用となったため。 出版が遅れていた研究書は次年度刊行される予定なので、その購入に充てたい。
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