2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520432
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
大平 幸代 奈良女子大学, 文学部, 准教授 (90351725)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 中国文学 |
Research Abstract |
平成23年度研究課題:博物学的著作の整理と頌・賛の検討―博物学はいかに表現されるか(1)魏晋における博物学的言説の収集、検討 魏晋期には、遠方からの朝貢の品がしばしば賦・頌・賛など文学作品の題材となっており、また各地の珍奇な産物をめぐる議論もさかんに行われている。本年度はそれら博物学的著作・記録の収集整理を行い、その調査成果の一例として、「火浣布(石綿)」に焦点をあてた論稿「火浣布をめぐる言説―魏晋における「異物」の記録と語りの世界―」を発表した。 本研究により、魏から晋にかけての博物の学の進展に、呉の南方政策およびそれに伴う「異物(遠方の珍しい産物)」の記録の増加が大きな役割を果たしていることが明らかになった。また、実際に呉から南方(東南アジア)に派遣された使者の記録とその後に編纂された二次的な「異物志」を比べてみると、同一の産物について記述しながら、後者には中国の気候風土にあわせた解釈がつけ加えられ、変質していることが分かった。なお、「火浣布」をめぐる説話には、魏の皇帝の見識の狭さを嘲笑するものが多い。これは、魏と呉の「異物」に対する認識の差を象徴するものだと思われる。さらに興味深いのは、「異物の存在(真偽)」が議論の中心であった魏・呉に対し、東晋になると「異物が生まれる原理」の探求へと関心が移る点である。その思考様式の変容、「異物」を詠む賦や頌・賛については、今回少ししか触れられなかったため、今後、稿を改めて論じたい。(2)賦注の整理・検討 魏晋の賦注にみえるモノについての注釈、とりわけ引用される書物に注目して、資料を整理した。現在、『文選』李善注のほか、『史記』『漢書』に引用された賦の注釈を検討し、郭璞が司馬相如「子虚上林賦」につけた注を中心に、考察中。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね計画通りだが、本来一年目の研究の中心にする予定であった頌・賛については資料整理の段階にとどまっており、予定より遅れている。ただ、先に「異物志」や「異物」をめぐる論争・説話に着目した論稿を発表したことにより、魏晋における「異物」観の地理的・時間的変容をおおまかに示すことができたため、かえって今後の考察・論述が容易になったともいえる。 なお、平成24年度に計画している「賦注研究」の予備調査として、本来、台湾での文献調査(李善単注本『文選』等)を予定していたが、影印されている他系統『文選』との校勘や、『漢書』注『史記』注などとの比較検討作業を先にすすめ、台湾での調査は次年度(平成24年度)にまわした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度研究課題:賦注の検討――学問と賦作の相互作用 平成23年度は、手元の資料を活用した作業に重点を置いたこと、また春季休暇中に海外調査のための時間が十分に確保できなかったことにより、当初計画していた台湾故宮博物院および国家図書館での調査を先送りし、24年度に行うことにした。 24年度は、上記の文献調査に加え、当初予定していた賦の注釈学についての考察を進める。まずは、『漢書』学、『爾雅』学など近接領域の注釈との比較検討から始めるが、必要に応じて、他の博物学的著作(後世の偽作と思われるものも含む)の調査も行う。 また、23年度課題の延長として、博物地理系説話の考察も同時に進めていきたい。著作とそれをめぐる説話を合わせ見ることにより、博物学・賦学盛行の基盤となった文人の心態に関する考察を一歩進めることができるであろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究経費の「次年度使用額」は、台湾への渡航費と文献複写費にあてる。 平成24年度の国内旅費の使途としては、東洋文庫、静嘉堂文庫での文献調査を予定している。 物品費は、主に「魏晋南北朝文学・思想・歴史関連書籍」の購入にあてる。関連領域が広いのは、当時の博物学があらゆる分野の学問と密接な関係をもっているためであり、その研究には、豊富な資料と俯瞰的な視点が不可欠なためである。
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