2013 Fiscal Year Annual Research Report
近現代日本における性・身体・権力―差別と性的倒錯の起源についての文学的研究
Project/Area Number |
23520443
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Research Institution | Wako University |
Principal Investigator |
山本 ひろ子 和光大学, 表現学部, 教授 (90318709)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮崎 かすみ 和光大学, 表現学部, 教授 (10255200)
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Keywords | 思想史 / 文学論 / 民俗学 / 翁 / 仮面 / セクシュアリティ / 差別 / 女 |
Research Abstract |
身体と性を起点に近現代日本思想史の再構築を目指した本研究の試みの中で、仮面と芸能、特に折口信夫における「翁」や「芸能者」の様態というテーマが競り上がってきた。 折口は国文学、民俗学、芸能論の先駆者で歌人・詩人としても活躍したが、同性愛者でもあり、その交遊の実態とセクシュアリティをめぐって様々に議論されている。しかし、それがどのように彼の知性と結ぼれ、学問を形成してきたかについては充分に解明されていない。 本研究ではこの問題をめぐり「翁」や「芸能者」という境界的な身体、また仮面の原型と変容に着目して探求を行なった。本年度は、昨年度に開催した「和歌浦・仮面フォーラム―芸能と仮面の向こうがわへ」の続編となるフォーラムを七月と一月に展開。いずれも折口信夫や乾武俊が取り組んだ「翁」論、境界論の先を見据える内容で、最新鋭の研究者たちと翁猿楽の成立をめぐる議論を交わし、共同研究の土壌を固めた。 また、これまでまったく論じられたことのない折口の演劇台本『花の松』を詳細に分析し、論文「作劇の構想力―『花の松』を読む」に結実させた。劇『花の松』は、旅の女・千引の前(漂泊芸能者の面影を持つ)が、生き別れの稚児を前に女三番叟(翁)を舞い、ふたたび別れ行く場面を白眉とする。そこには折口学の基底をなす「翁」観はもとより、折口自身がさまざまな形態で表現してきたセクシュアリティ―性の合一と反転、<聖>と<賎>のドラマツルギーが表現されていることを明らかにした。 2013年度は以上の研究活動を通して、これまで看過されてきた「被差別と性」、「仮面と性」という地平をひらいた。その問題は、2012年度の仮面フォーラムで発表した円地文子『女面』論や、中上健次と被差別部落・南王子村の文化とを出会わせるかたちで執筆した「『紀州』の向こうへ――キンジニヤニヤと「兄妹心中」、そして南方的想像力」とも根柢において連動する。
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