2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520445
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
松家 裕子 追手門学院大学, 国際教養学部, 教授 (20215396)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小南 一郎 龍谷大学, 文学部, 教授 (50027554)
磯部 祐子 富山大学, 人文学部, 教授 (00161696)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 宝巻 / 宣巻 / 唱導文藝 / 浙江 / 紹興 / 平湖 / 金華 / 中国 |
Research Abstract |
(1)【研究成果の公表】小南一郎が「「香山宝巻」―観世音菩薩の中国的生涯」を、磯部祐子が「紹興の宣巻 ―「三包宝巻」を中心に」を発表した。これらは、本研究の前身「中国近世唱導文藝研究 ―江南地域における実態調査」(科学研究費・基盤研究(C)課題番号20520341)をまとめると同時に、本研究の主要目的のひとつである、宣巻とその背後にある信仰とのかかわりを明らかにすることを企図した論考である。小南論文は宝巻テキストを丁寧に読み解いて、信仰を支えた女性たちの精神世界に深く分け入り、磯部論文は実地調査と文献調査の結果を総合し、現代中国における宣巻のありようを生き生きと描き出した。磯部はこの内容を韓国の国際学会で報告した。また、松家裕子は顧希佳著「紹興安昌宣巻調査」を翻訳(共訳)し、現地研究者が見た現代における紹興の宣巻の委細と分析を紹介した。顧希佳報告にいう現代における宣巻の世俗性と、小南論文のみる宝巻テキストの宗教性の両立のさまを、磯部論文が説明したかたちになっている。(2)【文献調査】小南は仏教系民間宗派の経典や儀軌本、磯部は宝巻や演劇、松家は上海図書館蔵『惜穀宝巻』をはじめとする宝巻テキストを中心に、それぞれ読解の作業を進めた。松家はまた、中国・日本以外に蔵される宝巻の調査のはじめとして、ロンドン大学SOAS図書館蔵の宝巻の調査も行った。研究協力者の要木佳美氏は、宣巻に関連する明清史研究の成果を洗いなおしている。(3)【実地調査】今年度は、紹興における調査は行わず、同じ浙江省内・金華において、語りもの芸能「金華道情」および地方劇「婺劇」の調査を行った。とりわけ「金華道情」は、「道教」に由来するとされる名称をもちつつ、都市芸能としての性格が強くなって、宗教性がほとんど消失し、宣巻の世俗性と宗教性の考察のための新しい視座の獲得を期待させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、「浙江沿海部、とりわけ、紹興および平湖について、その宣巻の全体像を把握すること」(申請書より引用)であるが、とくに次の3つを研究の重点としている。すなわち、(1)当該地区の宝巻(宣巻のテキスト)は、そのあつかうストーリーと表現方法において、それぞれどのような特徴を有するか、それは何に由来しているのか、(2)これらの宝巻はその背景にある信仰とどのようにかかわっているのか(とくに、地獄めぐりのモチーフを含む宣巻について)、(3)紹興地区に特徴的な、名判官たる包拯を主人公とする宣巻が、なぜこの地区において盛んに行われているのか。(1)については、磯部論文のおよび顧希佳報告の松家において、(2)については、小南論文、磯部論文および松家翻訳の注釈において、(3)についてはとくに磯部論文において、報告および考察がなされた。また、金華において、「金華道情」および「婺劇」について、現地の関係者に聴き取り調査を行い、文献資料を収集し、さらに、「金華道情」は都市で、婺劇については農村で、それぞれ生きたかたちの上演に接することができたことは、今後の研究を新たに展開させる契機となった。 ただ、本年度に行うことのできた実地調査が1回のみであったこと、またそれが、金華というはじめての地であったことが、当初の計画と異なっている。金華における調査の収穫は大きかったが、紹興あるいは平湖について、研究を深化させたり、新しい知見を得たりすることができなかった。申請時には、紹興や平湖の既調査地点を再訪し、同一地点における複数回調査を行うことも考えていたので、金華における成果ともにらみあわせ、今後の調査回数や調査地点について、熟考したいと考えている。 また、松家が『惜穀宝巻』の翻訳と注釈を本年度中にまとめ予定であったが、その作業が遅れたこともマイナス要因になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでどおり、文献調査と実地調査を行うが、新たな展開として、以下のことを考えている。(1) 杭州師範学院研究員の顧希佳氏が、共同研究の可能性を示唆しておられる。浙江地区で儀式歌を中心に、フィールドワークの実績をもつ顧希佳氏の協力を得ることによって、実地調査やその考察に新しい境地が開ける可能性に期待し、これを進めたい。(2) 金華は、婺劇や金華道情などの芸能が残り、また、知識人以外の人々、とりわけ芸能者たちと、現地の人々を通訳に立てることなく、普通話(公用中国語)で意志疎通が可能である点、実地調査に有利な土地であるので、金華における調査を本格的に行う。(3) 日本の研究者には、宣巻の佐藤仁史氏・太田出氏のグループや、金華でも名前が挙がりとくに民間伝承の研究に成果のある橋谷英子氏など、浙江あるいは江南地区において、民間文芸の実地調査を行ってきた人が少なくない。これらの人々と成果を交流し、研究をより充実させたい。(4) 研究協力者の要木佳美氏から、江南地区の宣巻にかかわる歴史研究の成果について、情報提供を受ける場を設ける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の使途は主として次のとおりである。(1) 中国において実地調査を、日本・中国において文献調査を行うため、また研究交流を行うための出張旅費。(2) 刊行された書籍など、宣巻・宝巻に関連する資料を購入するための費用。(3) 宝巻(『惜穀宝巻』)の翻訳・注釈を刊行するための費用。(4) 実地調査の現地協力者あるいは演じ手である芸能者にための謝金。
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Research Products
(5 results)
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[Presentation] 紹興宣巻2011
Author(s)
磯部祐子
Organizer
第九届中国地域文化与語言国際学術研討会
Place of Presentation
漢陽大学(韓国)
Year and Date
2011年11月2日