2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520445
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
松家 裕子 追手門学院大学, 国際教養学部, 教授 (20215396)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小南 一郎 公益財団法人泉屋博古館, その他部局等, その他 (50027554)
磯部 祐子 富山大学, 人文学部, 教授 (00161696)
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Keywords | 宣巻 / 宝巻 / 中国 / 紹興 / 金華 / 道情 / 包公 / ブ[務+女]劇 |
Research Abstract |
【具体的内容】松家は、9月の杭州における紹興宣巻の調査にもとづき、「紹興の小目連『太平宝巻』」と題して報告を行った。この調査では、紹興の宣巻グループ「大和班」を、杭州に招き、大学内で宣巻の上演を行い、その後、聞きとり調査を行って多くの知見を得ることができたが、とくに『太平宝巻』が鎮魂の機能をもつことが明らかになったことに意義があったと考え、この報告でそれを示した。磯部は、2010年3月の紹興における宣巻調査の成果で、日本語で発表済みの「三包宝巻」についての論考について、その中国語版「紹興宝巻―以三包寶巻為中心的相関調査」を韓国の雑誌に発表した。 また、宣巻の周辺の芸能として、金華において調査を行ったブ[務+女]劇について、松家は、2011(平成23)年度の調査の記録としてブ[務+女]劇観劇記 ―2012年2月・浙江省遂昌」を公表、ブ[務+女]劇の上演とその背後にある信仰の関係について、説明を試みた。上記の調査をもっとも大きく実らせたのは磯部で、この調査で得られた知見をもとに、清朝宮廷の節戯(節日に演じられた祝祭劇)について、その性格を明らかにし、これを「略論節戯中的月令承応戯」と題する口頭発表および論文にまとめた。小南は、『詩経 ―歌の原始』を刊行、もっぱら「民謡」「歌謡」として読まれてきた『詩経』を詩人の営みとして捉えなおしたが、この方法は、宝巻の読み解きにも応用しうる。 【意義と重要性】本研究の目的は、文学のテキストとしての宝巻を、宣巻という、それが生まれ、また社会的な機能をもって「生きている」場のなかで捉えなおすことによって、より正しい読みに近づこうとすることにある。上記成果は、すべてこの試みであり、じっさいにテキストの解釈が変化してきている。とりわけ、その背後にある信仰との不即不離の関係が明らかになってきたことに、意義があると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に示したように、今年度は、宗教的な場から切り離された宣巻に接したことによって、かえって宣巻の宗教性をよりよく把握することができた。本研究の目的である、テキストである宝巻、これをとりまく宗教儀礼であり芸能である宣巻、さらに宣巻の背後にある信仰のかかわりについて、その説明のためのことばが、豊かになりつつある。それによって、また、テキストの読みかたもより正しいものに近づいているはずである。 また、これまでいくつかの宣巻グループに接し、宣巻人の人たちから芸能者としての性格が感じ取れないことに疑問を抱いていたが、宣巻人に基層の知識人というべき位置にいる人が多いことが、少しずつわかってきた。これらによって、現在テキストのかたちで図書館に残っている宝巻が、どのような人々によって創られ、社会の中でどのような機能を果してきたのか、そのイメージが具体的になりつつある。 ただ、本研究が当初めざしていた、以前調査した地点における再調査や経年調査を行うことを、まだできておらす、文献調査は、膨大な数の宝巻が残されていることからすれば決して十分とはいえない。また、現地調査で目にしていることがらや目の前の文献がどのような経緯でこのようなすがたになったものかという、歴史的な視点を獲得することも、課題となっている。 こうした理由から、(2)おおむね順調に進展している、とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究も最終年に入ることになる。現地調査については、「現在までの達成度」で述べたように、以前調査した地点における再調査、経年調査を行うことができていないので、紹興および平湖において、これらのことを遂行したいと考えている。また、金華では、ブ[務+女]劇の調査も継続するが、民間の金華道情研究の第一人者の協力を得ることができるという好条件に恵まれているので、より多くの金華道情の上演に接し、ビデオ撮影、芸能者にたいする聞き取り調査を行うとともに、テキストを読み進めたいと考えている。 文献調査については、ひきつづき、国内外の図書館および現地において、宝巻および道情のテキストを収集し、これらの読解を行う。 こうしてこれまでの調査を継続するとともに、3年間の成果をまとめることが重要であると考えている。具体的には、現地調査の記録がかなり蓄積されてきたので、これを研究者間で共有できるように整理する。また、宝巻や道情はほとんど日本語に翻訳されていないので、より精緻な研究ができるよう、そして中国語や方言を解さない研究者とも共有できるよう、これらの翻訳・注釈の作成を行う。そして、現地調査と文献調査にもとづくこれまでの考察の結果をまとめて口頭発表や論文のかたちで公表する。これらによって、われわれ自身が自ら得たことがらを確認して今後の研究につなげるとともに、広い範囲の研究者の研究の役立つことをめざしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
【旅費】中国における実地調査、中国図書館における文献調査、日本国内図書館における文献調査、研究交流のために、旅費を使用する。 【設備備品】実地調査において使用する撮影器材が老朽化しており、買い替えの必要が生じる可能性がある。また、宝巻あるいはその周辺領域についての書籍やデータベースが、最近、陸続と刊行・発売されているので、積極的に購入する。 【謝金】中国における実地調査では、現地調査の手配を依頼したり、方言と普通話(公用中国語)とのあいだの通訳をお願いする研究協力者が不可欠であり、こうした強力者には謝金を支払う必要が生じることがある。また、ブ[務+女]劇、宣巻、道情の上演をしたり、聞き取り調査をするにあたり、演じ手である芸能者に謝金を支払わなくてはならない可能性がある。 【印刷製本費】3年間の研究の成果を、冊子体の報告書としてまとめる予定であり、そのための印刷製本費を支出することになる。 このほか、電子化された資料を扱うための媒体やファイルなどの文具を購入する消耗品費、資料の複写費などが必要である。
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