2011 Fiscal Year Research-status Report
近30年の台湾原住民族文学の発展と言語危機の中で作家達がみすえる民族の未来像研究
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23520448
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Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
下村 作次郎 天理大学, 国際学部, 教授 (20148670)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 台湾原住民族 / 台湾原住民族 / 長編小説 / 言語危機 / 民族の未来像 / 平埔族 / 台湾 |
Research Abstract |
本研究は、ここ10数年にわたって継続して行ってきている台湾原住民族文学研究の体系化をはかり、世界先住民族文学の中に位置づけることを目的としている。平成23年度は、『台湾原住民文学選』全9巻(草風館、2002‐09出版)の研究成果を踏まえ、作家たちが何を描き、民族の未来像をどのようにみすえていているのかを明らかにするために、近年陸続と発表される長編小説の作品世界の解明と文学評論の研究に努めている。 平成23年9月は、長編作家アオヴィニ・カドゥスガヌとパタイの作品世界を歩く目的で平屏県の霧台郷や、台東県の卑南郷を訪ね、作家へのインタビューや作家の案内によるフィールドワークを行った。さらに『台湾原住民族文化文学評論集』の作者である孫大川氏と会い、台湾原住民文学の意義と問題性について意見交換を行った。 さらに10月14日から15日まで嘉義大学で開催された、「阿里山百年林業國際研討會」第七屆「嘉義研究」學術研討會では、「『義人呉鳳』の誕生地・諸羅県(嘉義)―呉鳳物語の生成―」について講演を行い、台湾原住民族文学の文学的背景について発表した。 また、ここ数年、同じ台湾の先住少数民族である平埔族の研究として、台中のパゼッへや台南のシラヤについての研究に従事し、9月に海外研究協力者である鄧相揚氏の案内で、連携研究者の魚住悦子氏と共に台中、台南のフィールドワークを行った。平埔族の研究は台湾原住民族文学の研究の中から派生的に生まれてきたものであるが、近年は台湾においても多くの原住民族研究者のあいだで注視される研究分野となっている。代表者の下村は前述した鄧相揚氏や魚住悦子氏、さらに天理大学附属天理参考館の学芸員、吉田裕彦氏や早坂文吉氏と共編で、原住民族研究の一環として『台湾平埔族、生活文化の記憶』(天理大学出版部、平成24年1月)を出版した。本書は台湾で大きな評価を受けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は、近年陸続と出版された長編小説に視点を当てて研究を進めてきた。研究対象は多数に上るが、特に日本での翻訳、出版と関連付けて研究してきたのは、パタイ著『笛鸛 大巴六九部落之大正年間』(麦田出版、2007年8月)、同『斯羅人』(耶魯出版、2009年8月)、同『走過 一個台籍原住民老兵的故事』(印刻出版、2010年6月)、同『馬鐵路:大巴六九部落之大正年間(下)』(耶魯出版、2010年8月)、そして、孫大川氏の台湾原住民族文学文化に関わる論文・評論の研究である。 上記の研究については、テキスト研究や翻訳、さらには作家との連絡などを日常的に行い、9月にはフィールドワークに出て、作品舞台の理解や作品に表れた世界についての第一段階的な確認作業を行った。 本研究における特筆すべき優位点は、本来は非常な困難を伴うフィールドワークにおいて、全面的な協力を惜しまない研究者と深い信頼関係を築いていることである。つまり、本研究は海外研究協力者の鄧相揚氏や作品の執筆者である原住民族の作家自身の全面的な協力に支えられている。このことを本研究の大きな特色あるいは優位点として強調しておきたいと思う。 平成23年度は初年度であったが、科研費を受けることができたことによって大きな成果を生み出すことができた。以下、平成23年度の業績として、次の三点をあげておきたい。一、長編小説の翻訳のための舞台調査、二、作者・作家への直接のインタビューと意見交換、三、研究成果報告:(1)2011年10月14日、嘉義大学における講演「『義人呉鳳』の誕生地・諸羅県(嘉義)」(2)同年12月18日、「日本と台湾を考える集い」における講演「台湾原住民文学の舞台を歩く」(3)鄧相揚・魚住悦子ほか共編『台湾平埔族、生活文化の記憶』(2012年1月)の出版(4)「『義人呉鳳』の誕生地・諸羅県(嘉義)」(『中国文化研究』8号、2012年)
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、日本における台湾原住民族研究の上で極めて大きな意義を有していると言える。それは例えば、本研究の研究業績の一環として、平成24年度に台湾原住民族に関する国際シンポジウムが開催されることなどにあらわれている。本研究のワークショップを兼ね、以下のような規模の国際シンポジウムを開催する。総合テーマ、日時、場所、主たる招聘者、国際シンポの枠組みは次の通りである。 「台湾原住民族の音楽と文化」国際学術シンポジウム(The International Conference on Taiwan Indigenous Peoples Music and Culture)、2012年4月14日―15日、於天理大学、天理大学附属天理参考館。 講演者は、基調講演の林清財教授(国立台東大学)と総括講演の孫大川先生である。その他、個別研究全三セッションと「台湾原住民族音楽の演奏」から構成されている。本研究は、今年度内にパタイの長編小説と孫大川氏の評論を翻訳出版する予定である。と同時に、4月の国際シンポジウムの研究成果は、平成25年度内に他機関の研究助成に協力を求めながら研究成果の共有のために公にしていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
【平成24年度の計画】枠組みは平成23年度の計画と同じである。 4月14日―15日:「台湾原住民族の音楽と文化」国際学術シンポジウム開催。於天理大学、4月―7月:台湾原住民族文学の翻訳、9月:バタイ氏の案内で平成23年度に続く2回目の台東県タマロカウのフィールドワークを実施する。シャマン・ラポガン氏の案内で蘭嶼島の作品舞台を訪ねる。研究協力者の孫大川主任委員を行政院原住民族委員会に訪ねる。政府文献の蒐集。台北市の山海文化雑誌社で研究協力者会合。台湾大学原住民族図書資訊中心ほかで資料調査。11月10日―11日:2012年度日本社会文学会秋季熊本大会(於熊本学園大学)で開催される、シンポジウム「大量死に立ち向かう文学言語とは」に参加。学会が招聘するシャマン・ラポガン氏と共に通訳およびコメンテータとして出席する。年度内に、国立台湾文学館の翻訳出版助成によりパタイ氏(連携研究者、魚住悦子氏訳)と孫大川氏(下村訳)の翻訳集2冊の刊行予定。平成25年2月中旬:下村は、アオヴィニ・カドゥスガヌ氏の舞台・屏東県霧台郷コチャボガンをフィールドワーク。主として日本統治時代の痕跡を調査する。
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