2012 Fiscal Year Research-status Report
近30年の台湾原住民族文学の発展と言語危機の中で作家達がみすえる民族の未来像研究
Project/Area Number |
23520448
|
Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
下村 作次郎 天理大学, 国際学部, 教授 (20148670)
|
Keywords | 国際研究者交流 / 台湾原住民文学 / 原住作家民族 / 歌謡 / 創作 / 長編小説 / 民族の未来像 / 台湾 |
Research Abstract |
本研究実施の当初より、平成24年度は4月に「台湾原住民族の音楽と文化」のテーマで国際シンポジウムを実施することを計画し、予定通り4月14日(土)と15日(日)に開催した。会場は天理大学および天理大学附属天理参考館である。連携研究者の魚住悦子氏、海外研究協力者の孫大川氏、鄧相揚氏はいずれも講演や研究報告を行った。また本シンポジウムでは、プユマ族の歌手、パイワン族の鼻笛の吹奏者を招き「台湾原住民族の音楽」演奏の場を設け、広く一般にも公開した。当日は文化人類学、民族音楽学、原住民族文学の専門家が多数参加し、総勢100名規模の国際シンポジウムとなった。 なお、このシンポジウムによって得られた研究成果を『台湾原住民族の音楽と文化』(400頁)として本年度中の刊行を予定している。さらに、本研究代表者および魚住悦子氏は、2012年12月に、それぞれ孫大川(パァラバン・ダナパン)著『台湾エスニックマイノリティ文学論』、巴代(パタイ)著『タマラカウ物語』(上・下)を草風館より翻訳出版した。作者はいずれもプユマ族である。なお、代表者は、2012年12月17日、草風館と共に行政院原住民族委員会より一等原住民族専業奨章を外国人として初めて受賞した。本受賞は、これまでの本科学研究費助成によるところが大きく、本研究による大きな研究成果の一つとしてここに報告させていただいた。 行政院原住民族委員会ホームページ:http://www.apc.gov.tw/portal/docDetail.html? CID=35AE118732EB6BAF&DID=0C3331F0EBD318C2BEBF277E4B7EBA48、台北駐日経済文化代表処ホームページ:http://www.taiwanembassy.org/ct.asp?xItem=337618&ctNode=3591&mp =202
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、「研究実績の概要」で既述したように、4月14日・15日に「台湾原住民族の音楽と文化」国際シンポジウムを開催して大きな研究成果を得た。講演は本研究の海外研究協力者、孫大川氏のものを含む2本、報告は同じく本研究の海外研究協力者、鄧相揚氏および連携研究者の魚住悦子氏のものを含む11本である。また、シンポジウムの初日に開催した「台湾原住民族音楽の演奏」では、パイワン族のサウニャウ・チュヴリュヴリュさんが双管の笛吹奏と鼻笛吹奏を披露し、プユマ族の呉花枝、孫優女、孫大山、林志興さんがプユマの歌謡、日本語の歌、バリワクスの創作歌曲を歌った。こうした研究活動を通じて、台湾原住民文学の原点には、口承文芸の他に、原住民族の生活規範ともなっている歌謡の存在を看過できないことが理解できるようになった。まさに歌謡こそが創作の原点であり、物語を生みだす創造/想像の源泉である。 出版面では、代表者は孫大川氏の論文を翻訳して、『台湾エスニックマイノリティ文学論』(草風館)として出版した。魚住悦子氏は大正年間のプユマ族のタマラカウ村を描いた、巴代(パタイ)氏の長編小説を『タマラカウ物語』(草風館)上・下二巻本として翻訳出版した。その他、学会活動および講演関係では、代表者は日本台湾学生会議関西支部定例会で「台湾原住民文学、そして生活文化からの世界への発信」と題して講演を行った。さらに、台湾日本語教育学会創立20周年記念大会(12月1日、於台中・静宜大学)で、「フォルモサは僕らの夢だった」のテーマで講演を行い、台湾原住民文学の言語問題に触れた。また、日本社会文学会(11月10日、於熊本学園大学)では、タオ族のシャマン・ラポガン氏の報告「民族運動(反核廃棄物運動)と文学の創作」について、コメンテータ兼通訳として参加した。 以上、平成24年度も当初の計画以上に充実した研究が進展した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は本研究の総括の年度と位置づけ、過去2年間の研究の進展状況を踏まえて、さらに今後につながる充実した研究成果をあげるために、今後の研究の推進方策を次のように計画している。 1、平成24年4月に実施した「台湾原住民族の音楽と文化」国際シンポジウムの研究成果を『台湾原住民族の音楽と文化』として出版する。本書の編集は昨年より鋭意進めており、本研究の大きな研究成果の一環として是非実現したい。 2、本年度9月に、東京および天理大学で、ワークショップ「文学の源泉―台湾原住民族作家が自作を語る―」の開催を予定している。招聘する作家はプユマ族の巴代(パタイ)氏(前述)、パイワン族のアオヴィニ・カドゥスガヌ氏(「野のユリの歌」の作者。下村訳で『台湾原住民文学選』7巻に収録)を考えている。 3、タオ族の海洋作家、シャマン・ラボガンの『冷海情深』『老海人』『天空的眼睛』を翻訳する。シャマン・ラボガンは、「黒い胸ビレ」「海人」「漁夫の誕生」が魚住悦子氏によって訳され、『台湾原住民文学選』2巻と7巻に収められおり、日本でもよく知られた台湾原住民作家である。本計画はシャマン・ラボガンの最新作と珠玉の散文集を訳出して、発展し続ける台湾原住民文学を引き続き日本に紹介するものである。 以上の研究計画を実現するために、8月末から9月初旬にかけて訪台し、シャマン・ラボガンの創作の舞台、蘭嶼島を再訪し、作品世界の風景、モデルとなった人物、タオ族の日常生活、海と漁についての感性や死の哲学についてフィールドワークを実施する。同時に、海外協力者の孫大川氏および巴代氏の故郷台東県卑南郷を訪ね、台湾原住民文学の源泉についてさらに考察を深める。こうした研究を実質的に推し進め、本研究の次の段階にある「台湾原住民文学の史的研究の可能性」研究へと発展するための確実な土台を形成したいと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の充実した研究成果を踏まえて、平成24年度に翻訳書(『タマラカウ物語』上下2巻、草風館)を出すことができたプユマ族の作家パタイ氏、およびルカイ族の作家アオヴィニ・カドゥスガヌ氏を日本に招き、東京および天理大学でワークショップや研究会の開催を計画している。その際の、会場費、運営費、および来日のためのチケット代・宿泊費・講演謝礼などを含む諸費用に使用する予定である。
|