2014 Fiscal Year Annual Research Report
前提研究の新アプローチ:前提条件操作の限界事例からの検証
Project/Area Number |
23520475
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
首藤 佐智子 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90409574)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 前提 / 操作 / ポライトネス / フェイス / フェイス威嚇 / 語用論的制約 / 客観化 / 間主観性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、申請者が過去10年間に渡って、前提を伴う言語形式の運用のしくみを明らかにするために、問題視されている言語使用を考察してきた研究を継続したものである。具体的には、集団的に前提が操作された使用例に関するインターネット上の情報を聞き手の間主観的情報を示すデータとして分析した。2014年度は、特に「残念な」という言語表現に近年意味の変遷が起きていることに焦点を当て、分析を行った。「残念な」の客観化が起きたのは、ポライトネス効果を意図した語用論的制約操作による新用法が発生し、この使用が浸透されると当初意図されたポライトネス効果が希薄化し、主観的な感情を伴うという意味が形骸化したためであるという説明に至った。意味の変遷に関して、母語話者の直感への依存過多を回避するために、国立国語研究所の「現代日本語書き言葉均衡コーパス」を補完的なデータとして活用し、伝統的用法と新用法に関してある程度の客観的な裏付けを示した。客観的表現が主観的意味を獲得していくプロセスは偏在し、そのプロセスを認知的に説明する研究は多いが、筆者が知る限りではその逆の方向性のプロセスに関して社会言語学的要因を考慮にいれた研究はこれまでになかった。本研究において、ひとつの特殊な表現に過ぎない「残念な」の意味の変遷に焦点を当てたのは、客観化のプロセスが少なくとも可能であり、その背景にポライトネス効果を狙った語用論的制約の操作使用が考えられることを1つのモデルとして示すためである。これは、語の使用において、ポライトネスが意図された語用論的制約操作が行われた場合に、その意図が形骸化するという社会言語学的パラドックスが存在する可能性を示唆するものでもある。この成果は、ひつじ書房から近日刊行される「日本語語用論フォーラム」(加藤重広(編))に掲載される予定である。
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Research Products
(1 results)