2012 Fiscal Year Research-status Report
機能範疇の働きと(ミクロ)パラメターに関する日韓対照研究
Project/Area Number |
23520476
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
青柳 宏 南山大学, 人文学部, 教授 (60212388)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高野 祐二 金城学院大学, 文学部, 教授 (40286604)
杉崎 鉱司 三重大学, 人文学部, 教授 (60362331)
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Keywords | 国際研究者交流 / 国際情報交換 / 韓国 / アメリカ |
Research Abstract |
研究代表者青柳は、日本語と韓国語、および第三の言語としての中国語の統語論と形態論のインターフェースにおいてどのような(ミクロ)パラメターが言語間の差異に関わっているかを明らかにするために、複合述語に着目し、比較研究を行った。まず、日本語と中国語のいずれにおいても先行研究で統語的な複合述語と呼ばれているものは到達事象を、語彙的な複合述語と呼ばれているものは達成事象を表すこと多いことが分った。つぎに、日本語と韓国語の複合動詞においては、分散形態論の立場から、前者が語根どうしの併合を多用するのに対し、後者では範疇未指定の語根をまず動詞化してから併合するものが多いことを明らかにした。 研究分担者高野は、本年度も日本語の分裂文を中心に研究を行った。日本語の多重分裂文における複数の焦点要素は同節要素でなければならないという「同節要素制限」には、前年度の研究で、例外が多数存在すること、さらに、その例外にも規則性があることを明らかにしたが、本年度は束縛の移動分析の観点から、この事実を説明する分析を精緻化した。 研究分担者杉崎は、日本語と韓国語に特徴的である項削除、かき混ぜに関し、これらを司るパラメターと機能範疇との関連について、日本語獲得の観点から考察を深めた。項削除については、実験調査により、4歳ごろにはすでに項は削除できるが付加詞は削除できないという知識を持つことを明らかにし、機能範疇が一致を引き起こさない言語でのみ項削除が可能であるという理論的提案に支持を与えた。一方、かき混ぜについては、言語データの詳細な分析に基づき、後置詞型の言語でのみこれが許されるという理論的提案に支持を与え、むしろかき混ぜを駆動する機能範疇が存在するとの仮説に疑問を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトは、全体的におおむね順調に進展していると考えられる。 まず、研究代表者青柳の研究においては、当初比較対照のための第三の言語としてインドネシア語を取り上げる予定であったが、適当な研究協力者を見つけることができなかったため、それを中国語に切り替えた。しかし、むしろ日本語と同様に複合述語が豊富な中国語を取り上げることにより、主要部後置型の日本語においてのみならず、一般に主要部前置型だといわれている中国語においても複合述語の後項がなぜ複合述語全体のアスペクト性を決定しているようにみえるのかという興味深い論点が明確になり、この問題について、中国語の統語的複合述語においては、ある機能範疇が前項と後項の間に介在し、その働きによって複合述語全体のアスペクトタイプが決定するとの仮説を提案するに至った。さらに、日本語と韓国語の複合述語形成の違いを検討するなかで、分散形態論的な見方に立てば、先行研究において定着した感のある統語的複合述語vs語彙的複合述語という二分類が必ずしも妥当ではないとの見通しを得た。上記の内容は論文、または口頭で発表している。 つぎに、研究分担者高野は、多重分裂文を検討するなかで、日本語における移動について新たな特性を発見し、その成果について論文および口頭で発表を行っている。 さらに、研究分担者杉崎も、研究対象となる現象(項削除、およびかき混ぜ)を当初予定していたよりも拡大し、その一部についてはすでに論文、口頭で発表している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、各研究者が現在進行中の研究をさらに進めると同時に、研究プロジェクトの総まとめを行う。 まず、研究代表者青柳は、日本語と韓国語の複合述語の比較研究を進め、現在までに明らかとなった違いが両言語のどのような特質、または(ミクロ)パラメター設定と関わっているかを明らかにしてゆく。 また、研究分担者高野は、韓国語の分裂文における移動の特性を明らかにすることに研究の焦点を絞り、特に日本語の多重分裂文の研究によって得られた知見が韓国語にも当てはまるものであるかどうかを検討する。 さらに、研究分担者杉崎は、項削除とかき混ぜについて日本語と韓国語の間にまったく違いがないのかどうかを明らかにし、項削除が機能範疇が一致を引き起こさない言語においてのみ許されるという仮説とかき混ぜの駆動に特定の機能範疇は関与していないという仮説をさらに検証する。 これらを遂行しつつ、各研究者の研究成果をつき合わせる作業を行う。当初から予想していたことではあるが、各研究者の導き出す結論が必ずしも相矛盾しないとは限らない。その場合でも、なぜ矛盾した(あるいは、矛盾したかのようにみえる)結果となったかを検討することは、一般言語理論の進展に貢献するものであるといえよう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究分担者高野について前年度からの繰越金5万円があるが、これは当初購入予定であった研究用図書資料の代金の支払いが次年度に繰り越されたためである。
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Research Products
(13 results)