2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520486
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
千種 眞一 東北大学, 文学研究科, 教授 (30125611)
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Keywords | 古典アルメニア語 / 新約聖書 / 公同書簡 / 談話 / 情報構造 |
Research Abstract |
古典アルメニア語新約聖書における談話構造および談話戦略を分析するための第一級の資料である「書簡」というテキスト・ジャンルに焦点を絞り、談話構造を構成する三つの主要カテゴリーすなわち①談話境界[談話・話題の一単位が終わり別の新たな単位が始まるところ]、②卓立[談話のクライマックス、最も重要な部分]、③結束性[談話をひとまとまりとして結束させる諸要素の総体]のそれぞれに関して、新約聖書ギリシア語本文と古典アルメニア語聖書のうちいわゆる「公同書簡」(すなわち「ヘブル人への手紙」「ヤコブへの手紙」「ペトロの第一の手紙」「ペトロの第二の手紙」「ユダの手紙」)をテキスト比較対照し、談話的レベルでの二聖書間の対応関係を同定した。とくにアルメニア語聖書の側に散見される独特の異訳や付加・省略あるいは不訳など、ギリシア語原文からの逸脱に着目し、これらの現象が古典アルメニア語翻訳者に固有の談話戦略を講ずるためになされた意図的な翻訳行為であったことを明らかにした。また、アルメニア語本文における談話的な標識がギリシア語本文のそれらと微妙な差異をともなって使用されていることや、とくに結束性の観点からギリシア語に欠如している代名詞や直示詞が明示されていることなどに関しては、談話戦略的な意図が認められることを明らかにした。以上の比較分析作業と並行して、古典期から現代に至る談話構造と談話戦略の変化を見るために、現代アルメニア語新約聖書の「公同書簡」についても同様の分析を進めた結果、とくに接続詞の使用と語順の違いが顕著に認められたことから、現代アルメニア語が上記の主要なカテゴリー全体にわたって古典期とは異質な情報構造が関わっている可能性を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ギリシア語新約聖書に見られる談話戦略と古典アルメニア語翻訳に見られる談話戦略の異同を比較分析することにより古典アルメニア語新約聖書に特有の談話構造を明らかにするという目的に向かって、23年度の「パウロ書簡」と24年度の「パウロの名による書簡」に続き25年度は「公同書簡」のテキスト間の比定作業を順調に進めてきた。その分析結果を現代アルメニア語新約聖書における談話構造と比較する作業も並行して行っており、古典期とは顕著に異なる談話構造・情報構造が認められることをも明らかにした。したがって、アルメニア語新約聖書における共時的・通時的観点からの談話構造・談話戦略の総合的研究という目的に関しては、当該年度分の実施計画はおおむね達成されたものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していた「研究実施計画」に基づき古典アルメニア語新約聖書「書簡」全体について談話構造の特徴をギリシア語新約聖書との比較分析を総括する。同時に、現代アルメニア語新約聖書との異同を明らかにすることにより、アルメニア語における談話戦略の歴史的変遷の解明に向けて研究を進めていく。また、引き続きアルメニア人母語話者からも談話に関する情報を得るなどして、現代アルメニア語における談話分析の一般理論の構築に寄与していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、当初実施を計画していた海外での資料調査・収集を延期したことにより生じたものである。 延期した海外での資料調査・収集に必要な経費として平成26年度請求額と合わせて使用する予定である。
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Research Products
(1 results)