2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23520486
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
千種 眞一 東北大学, 文学研究科, 教授 (30125611)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 古典アルメニア語 / 新約聖書 / 書簡 / 談話構造 / 談話戦略 / 統合辞 |
Outline of Annual Research Achievements |
談話構造を構成する三つの主要カテゴリー、すなわち談話境界、卓立、結束性のそれぞれに関して、前年度までに行ってきた新約聖書ギリシア語本文とアルメニア語翻訳テキストの「書簡」すなわち「パウロ書簡」「パウロの名による書簡」「公同書簡」を比較対照し、談話的レベルでの対応関係を同定する作業に基づき、書簡テキスト全体について古典アルメニア語における談話構造と談話戦略の特徴を包括的に調査した。その際、特にギリシア語本文からは説明できない意訳、付加・省略・不訳などギリシア語原文からの逸脱ないしは談話標識対応の微妙な差異、そして人称直示詞の使用状況に着目することにより、これらの現象が古典アルメニア語翻訳者に固有の談話戦略を効果的に駆使するため意図的になされた翻訳行為を反映していることを明らかにした。特に古典アルメニア語に固有の定冠詞・形容詞・副詞を横断する人称直示詞の体系が談話構造を構成する有効な手段として機能していた実態が福音書と同様に「書簡」においても明瞭に認められた。しかし、「書簡」ではこの手段に大きく依存することは意図的に避けられており、文脈に応じて自由な訳も散見され、アルメニア人翻訳者独自の解釈もそこに反映されていることが確認された。また、この分析結果を現代アルメニア語新約聖書の「書簡」における談話構造と比較することにより、古典期から現代にいたる談話構造と談話戦略の変化を見るために、同様の分析を進めた結果、特に結合辞ないし談話的小辞の使用状況と節レベルにおける語順の違いが顕著に確認されたことから、さらにアルメニア人母語話者による情報をも考慮することにより、現代アルメニア語が主要な三つのカテゴリー全体にわたって古典期とは異なる談話戦略を講じていることを明らかにした。
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