2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520487
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
嶋崎 啓 東北大学, 文学研究科, 准教授 (60400206)
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Keywords | ドイツ語 / ゲルマン語 / 言語学 |
Research Abstract |
ドイツ語と英語は同じゲルマン語に属すが、歴史的な言語変化のしかたは大きく異なる。完了形の発達という点では、ドイツ語は現在完了形を一般的な過去時制として用い、先進的であるのに対し、英語は現在完了形を限定された意味用法でしか用いず、保守的と言うことができる。名詞の曲用や動詞の活用という点では英語は非常に変化が簡略化され、先進的であるのに対し、ドイツ語は語形変化を残し、保守的であるので、完了形の発達と語形変化の衰退は比例しないことが分かった。イディッシュやペンシルバニアダッチ、アフリカーンス等で完了形が発展していることに鑑みると、一般に言語が外的要因により変化を被った度合いが高いほど完了形を発達させる傾向にあることがうかがわれるが、実際には変化の乏しいドイツ語の方が、大きく変化した英語よりも完了形を発達させている。この逆転現象の原因は受動態における助動詞の選択と関連するのではないかと考えられる。すなわち、英語においてはbeが受動の助動詞であるのに対し、ドイツ語ではbeに相当するseinは受動としては状態受動という特殊な受動を表し、むしろ完了形の助動詞として多く用いられる。英語でbeがもっぱら受動の助動詞として機能することが完了形の発達を阻害したのではないかということである。そこでLe Petit Princeのドイツ語訳、英語訳、アイスランド語訳を比較したところ、単に受動の助動詞の選択に違いがあるだけではなく、英語で受動のbe+過去分詞が用いられるところでドイツ語や原語のフランス語では一般的な人を表すmanやonを主語とした能動態が用いられたり、再帰代名詞による再帰動詞や代名動詞が用いられているというように、英語の受動のbe+過去分詞の使用頻度自体が高いことが明らかになり、beの受動の助動詞として機能が特化されたことが完了形発達の阻害の一因になることがある程度裏付けられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
完了形が英語よりもドイツ語で発達している要因として、ドイツ語の一般的な受動の助動詞がwerdenであり、seinは受動としては状態受動という特殊な受動の助動詞であり、むしろ完了形の助動詞として用いられるのに対し、英語のbeが完了形の助動詞としては用いられなくなり、受動の助動詞に機能が制限されたことにあるという仮説を立てた。すなわち、beの助動詞としての機能が受動の助動詞に限定されたことにより、have+過去分詞がドイツ語のhaben+過去分詞よりも間接受動を表す頻度が高くなり、その結果、英語の完了形がドイツ語の完了形よりも発達してなかったという仮説である。しかしこの考えに従うと、フランス語ではêtreが受動の助動詞でありながら完了形の助動詞としても機能しているということをうまく説明できないことになる。しかし実際に調査してみると、英語でbe+過去分詞が用いられる多くの箇所が、フランス語では一般的な人を表すonを主語とする能動文や再帰代名詞による代名動詞に対応しており、受動のêtre+過去分詞の使用頻度そのものが英語のbe+過去分詞よりも小さいことが分かった。従って、英語のbeが受動の助動詞として多く用いられることが完了形の発達を阻害する一因であるという仮説は否定されないと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
英語やドイツ語と同様ゲルマン語の一つであるアイスランド語においては、受動の助動詞はvera (= be) であるが、完了形は英語よりもむしろ発達している。これまでの調査で、アイスランド語のveraが完了形の助動詞として用いられる頻度は、ドイツ語でseinを完了形の助動詞として用いる頻度よりも小さいことが分かっている。これは完了形の助動詞としてveraを選択する動詞の種類が、ドイツ語においてseinを完了形の助動詞として選択する動詞の種類よりも少ないためだと考えられる。しかしもし受動の助動詞になる動詞によって完了形の発達の度合いが異なるとすれば、veraを受動の助動詞として使用する頻度が英語のbeを受動の助動詞として使用する頻度よりも小さいことが明らかにされねばならない。そこで今後は、アイスランド語の受動のvera+過去分詞の使用頻度と英語のbe+過去分詞の使用頻度を比較することによって、英語のbeの受動の助動詞としての機能の強さを裏付けたい。また、英語で完了形の発達が遅れている要因として、進行形の発達による影響という観点も考慮する余地がある。すなわち、英語の動詞は無標の状態ではドイツ語の動詞よりも完了的な意味に傾いており、そのため有標な形式として進行形を発達させたが、もともと完了的であるので、分析的な形式としての完了形を発達させなかったということである。このことを検証するために、アイスランド語の進行形vera+að不定詞構文と英語の進行形との比較を試みたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額と合わせ、次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)