2011 Fiscal Year Research-status Report
言語の維持と変容についての総合的研究ースラヴ系少数言語の実証的分析をふまえてー
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23520505
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
三谷 惠子 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (10229726)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 言語接触 / スラヴ語 / クロアチア語 / セルビア語 / ルシン語 / ブルゲンラント・クロアチア語 |
Research Abstract |
23年度は、これまでに調査済みであった、移住クロアチア人の言語資料の整理と追加調査、またクロアチアにおけるルシン語の状況調査を行った。移住クロアチア人の言語については、16世紀に現在のオーストリア、チェコ南部、スロヴァキア西部に移住したクロアチア人たちの言語のデータを整理し、過去に調査したものと照合して、さらにどのような検討課題があるかを考察した。これらの地域におけるクロアチア語は、移住からすでに400年を経て、現在なお古いクロアチア語方言の特徴を維持しているものの、日常的なドイツ語との接触によってドイツ語から語彙や語形成の影響を強く受けてきた。こうしたことは既に多くの研究者によって指摘されているが、本研究ではさらに、20世紀に入ってチェコやスロヴァキアとなった地域に住むクロアチア人の言語に、ドイツ語とともに日常的な接触にある西スラヴ語(チェコ語、スロヴァキア語)が影響を与えたために、それぞれの単独の影響とは考えられない形で発展した構文があることを発見した。またハンガリー、オーストリア、スロヴァキアの三か国の国境地域に住むクロアチア人たちは、長くハンガリー語、ドイツ語、スロヴァキア語を併用してきたため、音韻特徴に独特の特徴があることが明らかになった。クロアチアのルシン語については、現在クロアチアの都市部に住むルシン人の研究者および文化活動家と現地で面談し、言語状況や言語の特徴について聞き取りを行った。ルシン語はセルビア北部で主に用いられているが、クロアチア北部にも分散的にルシン人が居住している地域がある。これらのルシン語は、セルビアのルシン語以上に南スラヴ語の影響を多く受けていると考えられ、さらなる調査の必要性があることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度は、研究対象とする中欧スラヴ系少数言語のうち、ブルゲンラント・クロアチア語についてのこれまでの研究の一部を発表し、また新たな問題点の発見に至った。とくに、スロヴァキアおよびチェコに移住したクロアチア人の言語の特徴、今日の言語維持のための努力などを現地調査によって明らかにし、同時に、この言語において従来ドイツ語との接触とされてきたことが、必ずしもそうとは言えず、独自の発展形式である可能性を見いだした。この点は次年度以後さらに検討すべき課題としたい。またルシン語についても、クロアチア在住の研究者および文化活動家にインタビューし、その実態の一端を明らかにすることができた。 方法論については、言語接触による影響を対照分析的に考察するために「語彙化」と語形成という枠組みを援用することを考えた。「語彙化」を語彙総体(Lexicon)に語彙素(Lexeme)が登録されるプロセスと考えるとそこには語形成のタイプ、語形成にかかわる形態素の生産性、語形成が生じるための適正条件などが関与する。これらが、接触言語による形態素や語形成パターンの借用によって、本来の語彙化のプロセスからどう変化するかを考察することが有効なアプローチになりうるという見込みを得た。語彙化は文法化とともに言語学において活発に議論されるテーマであるが、言語接触と関連づけた体系的考察はまだ未開拓の部分であり、本研究の独自性に大きく貢献するものと見込まれる。なお、この考えに基づいて現在、一つの形態素が異なるスラヴ語において語彙化と呼ばれるプロセスにどう関わってきたかを考察する論文を執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、23年度の実績を踏まえ、さらに現地調査および文献資料に基づく言語データの収集と記述を行うとともに、語彙化と語形成のシステムの関係を理論的枠組みとして整備し、具体的な考察をまとめていきたい。言語資料としては、ルシン語よびソルブ語の事例をさらに収集することが当面の課題となる。どちらの言語も標準語をもってはいるが、実際に使用される言語は標準語とはかなり異なっており、現地における調査、あるいはラジオ放送の収録などを行うなどによって、実証的資料の収集を続ける必要がある。 また語彙化、語形成と生産性についてこれまでに言語学一般の中でどういった議論がなされてきたかを明らかにし、具体的な事例研究を例を参照しながら、さらに有効な分析の枠組み作りを行っていきたい。またそこに借用あるいは他言語からの影響という要因をいかにして組み込むかについても考えたい。 さらに、本課題の柱の一つでもある、社会言語学的側面からの考察も引き続き行っていく。とくにスロヴァキアのクロアチア人社会では、オーストリアのブルゲンラント州のクロチア人文化組織と連携して、EUからの助成を得て2011年夏から、初等教育へのブルゲンラント・クロアチア語の導入のプロジェクトを立ち上げた。これがどのような形で実施されていくかを、本研究が課題とする少数言語の維持のための方法の事例として、経過を見守っていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度と同様に、研究費は主として、スラヴ語関係および言語学関係の図書の購入、必要な資料の収集および現地調査のための旅費に使用したい。具体的には、図書の購入および資料の複写のための費用として40万円程度、現地調査のための旅費に40万円程度を充てたい。残りは、現在執筆中の論文の欧文校閲のための謝金、および国内学会発表のための旅費に使用することを考えている。
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Research Products
(3 results)