2013 Fiscal Year Research-status Report
言語の維持と変容についての総合的研究ースラヴ系少数言語の実証的分析をふまえてー
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23520505
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三谷 惠子 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (10229726)
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Keywords | 言語接触 / 借用のパターン / ブルゲンラント・クロアチア語 / モラヴィアのクロアチア語 |
Research Abstract |
本年度は、これまで行ってきた、ブルゲンラントクロアチア語の調査を継続し、とくに、その中で、チェコにまで移住した一群(以下、モラヴィア・クロアチア人)の残存言語の調査を完了した。この言語は、チェコ語、ドイツ語と長く接触状況にあり、多くの語彙および文法的借用が見られる。だがこの借用の現れ方は、ランダムではないことが明らかになった。すなわち、語彙借用においては、一般的な語彙語はドイツ語、チェコ語の双方からの借用がみられるが、機能語(前置詞や接続詞など)では、チェコ語からの借用が圧倒的であり、ドイツ語からの直接借用はほとんど見られない。いっぽう構造的借用においては、ドイツ語からの借用が顕著であり、ドイツ語と同じような語順構成、再帰代名詞に代わる人称代名詞の使用などが見られる。しかし、これらも義務的に現れるわけではなく、本来のスラヴ語の構造をもった言い方が使われる場合もある。しばしば指摘される、冠詞に対応する指示代名詞の使用も見られるが、まだ、文法化されているという段階からはほど遠い。ここから、言語借用において、語彙的要素は借用されやすく、より文法構造にかかわる要素は借用されにくい、という、言語接触論で多く指摘されることがらが、この言語においても再確認されることとなった。また機能語の借用にも一定の序列があることを確認した。この成果は論文にまとめ、2014年8月にベラルーシのミンスクで開催された国際スラヴィスト会議で発表した。 またソルブ語、とくに下ソルブ語の変遷と現状について、引き続き調査を行い、これについてはコトブスのソルブ語研究センターの研究員と連絡をとり、2014年度に継続調査を行うことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、クロアチア系の少数言語の言語調査を中心に、他言語との接触下にある言語がどういった面で変化し、またどこが変わらないかを実証的に明らかにしてきた。言語事実として、言語接触による影響の現れ方に一定の規則性があることを発見できた。また、国際学会において発表し、海外研究者の最新の研究成果にふれ、交流することができた。ソルブ語については、資料を集めながら歴史的な変化について研究中であり、これは次年度にまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は、本科研課題研究の最終年度にあたる。そこで、今年は、これまでに集めた資料をまとめながら、少数言語の維持と変容にかかわる要因と変化の現れ方を中心に、考察を整理する。具体的には(1)ソルブ語、ブルゲンラント・クロアチア語、ルシン語という三つのスラヴ系少数言語の歴史的また地政学的背景の違いを明らかにしながら、その変遷と言語的変容の相違点と共通点をまとめる、(2)旧ユーゴ圏などに散在するそのほかの少数言語の分布と状況を比較しながら、上記三言語の特殊性がどこにあるかを明確にする、(3)少数言語の維持と変容にかんする一般的考察を行う。
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Research Products
(5 results)