2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520517
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Research Institution | Fuji Women's University |
Principal Investigator |
井筒 美津子 藤女子大学, 文学部, 准教授 (00438334)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 社会言語学 / 談話研究 / 方言 / 誤解・誤伝達 / 文末表現 |
Research Abstract |
本研究は、一見共通語的でありながら、地域方言的な意味・機能を発達させている表現(擬似共通語)に起因する誤解・誤伝達の仕組みを明らかにすることを目的とする。特に、情緒伝達機能を担っている点で、他方言話者の誤解・誤伝達を誘引し易い文末詞の方言的解釈の多様性を詳らかにすることを目指す。 初年度の平成23年度は、「共通語に類似した形式が存在しながらも、明らかに特定の地域方言的な意味・機能を発達させている」表現が他方言話者によってどのように解釈されるのかを捉えるための記述モデル策定を行った。先ず、誤伝達に関する文献調査を行い、それを基に誤伝達の受け止め方に関するアンケート調査を実施した。調査結果は、概念構造記述とプロトタイプ意味論双方の側面から、誤伝達が生じる仕組みとして提案し、研究成果を第14回日本語用論学会(京都外国語大学)で発表した。 次に、「共通語に類似した形式が存在しながらも、明らかに特定の地域方言的な意味・機能を発達させている」北海道方言に関する調査を実施した。特に、北海道方言の文末詞の『さ』と『しょ』を取り上げ、前採択課題(基盤研究C 20520360)において編纂した「北海道方言コーパス」(井筒 2011)の中から、文末詞『さ』と『しょ』が使用されている会話を抜粋し、これら文末詞の使用に関する印象調査を3月に関西地方で行った。 また、文末詞の情緒伝達機能について、欧州の諸言語に見られるmodal particles、final particlesとの対照研究を行った。また、日本語文末詞の情緒伝達機能の史的発達に関しても、文法化・文末詞化の観点から分析を行った。二つの研究成果は7月に行われた第12回国際語用論学会(マンチェスター大学)で発表した。 さらに、コミュニケーションの許容閾等に関する研究を行っているバーバラ・トマスチック先生を迎え、3月に講演会を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書における平成23年度の研究計画は以下の通りであった。(1)「共通語に類似した形式が存在しながらも、明らかに特定の地域方言的な意味・機能を発達させている」表現が他方言話者によってどのように解釈・誤解されるのかを捉えるための記述モデルの策定(2)「共通語に類似した形式が存在しながらも、明らかに特定の地域方言的な意味・機能を発達させている」北海道方言に関する印象調査の実施(3)日本語文末詞の情緒伝達機能と類似した機能を持つ欧州諸言語の不変化詞(modal particles、final particlse)との対照研究 平成23年度は、補足的課題や発展的研究の必要性を翌年度以降に残しながらも、初年度に計画した上記三点の研究をおおむね実施した。(1)については、誤伝達に関する文献調査とアンケート調査を実施した。そして、これらの結果を概念構造記述とプロトタイプ意味論双方の観点から分析し、誤伝達が生じる仕組みを提案し、その成果を第14回日本語用論学会で発表した。(2)については、北海道方言の文末詞『さ』と『しょ』に関する印象調査を関西地方で実施した。大阪、京都、兵庫、滋賀、和歌山出身の関西方言話者に、これらの文末詞の印象に関する聞き取り調査を実施した。(3)については、日本語の文末詞と欧州言語の不変化詞(modal particles, final particles)との共通性や相違点を指摘し、研究成果を第12回国際語用論学会で発表した。この研究成果については、現在出版準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、初年度に策定した誤伝達の記述モデルの改訂を進めながら、前年度関西地方で実施した北海道方言の文末詞『さ』と『しょ』の使用に関する印象調査を、関東地方で行う予定である。同時に、これら調査結果の分析に必要な北海道方言の『さ』と『しょ』の意味・機能に関する分析・記述を、同様の形式を持つ共通語や他方言との比較を通して行う予定である。また、文末詞の情緒伝達機能という観点から、日本語文末詞の史的発達に関する理論的研究も進め、その成果を5月にフランスで行われるGramm 2012(ルーアン大学)や第45回ヨーロッパ言語学会(ストックホルム大学)で発表する予定である 平成25年度は、「北海道方言に類似した形式が存在しながらも、明らかに特定の地域方言的な意味・機能を発達させている」他地域の表現に対して、北海道方言話者がどのように解釈するかの観察を行う。特に、関東(主に千葉)方言の『(っ)しょ』、関東方言および沖縄方言の『さ』などの文末詞が、北海道方言話者にどのように解釈されるかを調査し、最終的には他地域方言に対する北海道方言話者の誤解が生じる過程の記述を目指す。 最終年度は、情緒伝達機能を担う日本語文末詞の使用に関わる誤伝達の仕組みを、対人コミュニケーションへの実践的応用可能な方策として提案することを目指す。三年度目までの計画が、擬似共通語に起因する誤伝達が生じる仕組みを解明することに力点を置くのに対して、最終年度は、その仕組みを土台として、誤伝達、特に「気づきにくい」方言的差異に基づく誤解などに起因する人間関係上の摩擦や軋轢といった問題を未然に回避したり、そうした問題が生じた場合にその解決を図るために、どんな方策が立て得るのかを明らかにすることに焦点を置く。得られた成果は国内外の学会等で発表し、さらにその成果を実践に応用しやすくするために冊子の形でまとめる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度も、昨年度同様、国内外の言語調査や様々な言語研究における経験が豊富な井筒勝信氏に「研究協力者」を依頼し、方言印象調査の実施や言語分析等に際し、同氏の協力・助言を仰ぐ。 平成23年度は、予定していた第12回国際語用論学会での発表に際し、研究代表者の旅費の一部が所属大学の研究奨励助成(海外学会発表)により充当することが出来た為に、次年度に繰り越す研究費が生じた。 今年度は、現在のところ、5月にフランスで開催されるInternational Conference on grammaticalization theory and data(Gramm2012)と8月にスウェーデンで開催される45th Annual Meeting of the Societas Linguistica Europaeaで研究発表を行う計画である。これらの発表は、研究協力者の井筒勝信氏との共同発表であり、同氏にも参加を依頼する予定である。これらヨーロッパにおける学会発表に係わる二人分の旅費を前年度未使用分の研究費と今年度の研究費から充当する予定である。 その他、北海道方言の文末詞の使用に関する印象調査を関東地方で実施する予定であることから、この調査運営費を今年度の研究費から計上する。
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Research Products
(3 results)