2011 Fiscal Year Research-status Report
日本資料を視野に入れた二十世紀香港粤語の総合的研究
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23520531
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Research Institution | Aichi Toho University |
Principal Investigator |
竹越 美奈子 愛知東邦大学, 経営学部, 准教授 (50340401)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流(香港) |
Research Abstract |
本研究の最終的な目的は、日本資料を活用して二十世紀香港粤語を研究し、それにより、従来の現代語研究と現在国際的規模で盛んに研究されているいわゆる早期粤語研究(十九世紀を中心とする粤語の通時的研究)の間の隙間を埋めることである。そのための基礎的作業として、平成23年度は当初の計画通り、資料の整理と紹介に専念した。 本研究の学術的な意義としてはまず、日本資料を語料として活用すること自体の意義があげられる。従来通時的研究で日本資料は本格的に語料として利用されてこなかった。こういった資料に注目すること自体が新しい試みである。第二に、日本資料の資料的価値に一定の評価を与える必要があることが指摘できる。日本資料の多くは戦争中に短期間で編纂されたため、資料としての価値を慎重に見きわめる必要がある。解題などを作成して資料の価値を報告すれば、資料的価値の高いものは国内外で語料として利用されるようになり、ひいては粤語研究の発展に寄与することが期待できる。この作業は特に日本人粤語研究者の責務とも言える。最後に、二十世紀粤語を研究することの意義があげられる。二十世紀に香港が経験した経済成長と大幅な人口流入、また中国復帰後の言語環境の変化から考えて、同時期の香港粤語は総合的に記述し、後世に伝えるべきであろう。日本資料はこれに大きな役割を果たす可能性がある。 本年度は基礎的な作業に専念したため、学術論文の発表はなかったが、拙著『早期粤語文献資料(稿)』に加筆修正してインターネット上で公開し、世界中の研究者が最新版をダウンロードできるようにしたこと、さらに竹越が香港政府のプロジェクトである「早期粤語語法に関する研究」にアドバイザーとして関わって「早期粤語語法ワークショップ」(2012年12月14日、香港科技大学)に参加したことにより、国際的にも貢献できたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、本年度は資料の整理と紹介を第一の課題とし、おおむね計画通りに進めることができた。具体的な実施状況は以下の通りである。 1.日本資料の整理:既存の目録の加筆修正について。申請者がすでに作成済みの「粤語早期文献資料」(2010年)という目録では各図書館発行の図書目録とインターネットによる検索を通じて情報を収集したが、1950年代に作成された天理大学目録(『日本現存粤語研究書目(稿)』)に所蔵先が記載されている資料のうち約三分の一の所在が確認できなかった。そのため、本年度は、天理大学目録および各図書館で発行している図書目録をもとに、実際に所蔵図書館(大英図書館、ロンドン大学東洋アフリカ研究所図書館など)を訪れて調査をし、目録の拡充に努めた。 2.日本資料の紹介:系統的な解題の作成。日本資料の解題はすでにいくつかが影印版とともに収録されているほか、竹越も近年国際学会でいくつかの資料の概略を発表した。こういった先行研究の成果をふまえ、系統的で利用しやすい解題を作成する計画であった。日本資料はその多くが戦争中に短期間で編纂されたため、質の高くないものも含まれている可能性があり、この作業は絶対に必要である。この作業は次年度もひきつづき行う。 3.西洋・日本・香港資料の総括。日本資料の価値を客観的に見るためには、時代的に隣接する他国の資料も考慮する必要がある。したがって、申請者がすでに作成している目録「粤語早期文献資料(稿)」(2010年)のうち、西洋資料と香港資料の項目の補充に努めた。これに関しては、最新の目録をインターネット上で公開することができたので一定の成果があったと考えている。(http://staff.aichi-toho.ac.jp/takekosi/mokurokuupdated.pdf)
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Strategy for Future Research Activity |
これまでほぼ計画通り進んでいるので、今後も当初の予定通りに研究を実施する計画である。 平成24年度に研究を予定している課題は、日本資料・西洋資料・香港資料に記述された二十世紀香港粤語の整理と上記資料に反映された二十世紀香港粤語の総括である。前年度までに整理した文献資料のうちで、語料として用いる価値があると判断されたものを用いて、そこに記述された二十世紀粤語の変化の過程を調べる。そこでは、どの資料にも記載されているような基本的な事項、たとえば、発音、指示代名詞、疑問詞、疑問文の形式、助動詞、常用の前置詞などについて、各資料の記述を一覧にして比較する。最終的にはそうして得られたデータを、十九世紀および二十一世紀現在の粤語と比較して、言語の通時的研究という視点から二十世紀粤語をとらえることを目的としている。 最終年度には、これまでの研究成果をまとめて国内外の学会で積極的に発表することを目標にする。さらに文献目録および研究成果報告書を英文か中文で作成して国内外に公開したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の使用計画のうち主要なものは旅費で、国際学会への参加二回と資料調査を二回、合計四回程度の海外出張を計画している。具体的に、国際学界は国際中国語言学学会年次総会(6月、香港理工大学)と国際粤方言研究会(12月、中国広東省)に参加する。日本資料を活用した早期粤語語法の研究成果の発表のためである。現地調査は『早期粤語文献資料(稿)』の加筆修正のために、海外の図書館(イギリス大英図書館、アメリカハーバード大学図書館等)に出向く。
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Research Products
(3 results)