2011 Fiscal Year Research-status Report
東北日本海域における近世言語生活に関する研究-往来物資料からの分析-
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23520541
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
郡 千寿子 弘前大学, 教育学部, 教授 (50312476)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 地域研究 / 言語生活 / 往来物 / 東北 / 近世語 |
Research Abstract |
往来物は、日本社会の近代化に関わる重要な資料群であり、生活規範確立に寄与するものだが、発掘調査や資料的価値など、その研究は十分にすすんでいない。本研究は、東北地域所蔵の往来物資料の調査研究を基盤として、地域社会における言語生活の反映や文化形成に果たした役割などを解明し、新たな視点からの活用を提案しようとするものである。 すでにすすめてきた北東北地域(青森・岩手)に所蔵された資料についての調査研究成果と比較することも目的のひとつであり、本研究期間内には、東北の日本海域の文化圏を想定し、松前、秋田、山形に限定して重点的に調査を実施する。北前船を利用した西廻り航路の存在は重要であり、陸路だけでなく海路での物資輸送とともに文化の流入や混交があったことを資料研究を通して実証する。 本年度23年度は、秋田県立図書館所蔵の資料調査に加えて、山形の酒田市立光丘文庫に所蔵された資料について調査を実施した。またその分類整理を行い、目的別と出版地別に資料群を考察検討した。秋田の資料群は、理数科往来資料が他の地域に比して多いこと、酒田の資料群は、大坂・京都といった関西圏で出版された資料が多く流入していることなどの特徴が明示できた。地域特性の一端が資料の調査分類を通して提示できたことは大きな成果といえる。 今後、資料の詳細な内容検討を行うことによって、教育環境や社会での活用実態、文化の定着過程などの検討考察へと発展させる。往来物資料の研究は、地域文化研究の基盤となる可能性を秘めており、多様な広がりをもっていることを実証する。 23年度には国際学会で研究発表を行い、研究論文2件を成果として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三年間の本研究期間において、松前、秋田、山形の地域における、往来物の所蔵状況について調査する研究計画であった。 すでに秋田、山形の一部について調査を実施し、資料の目的別や出版地別の分類整理を行った。その研究成果についても順次公表している。
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Strategy for Future Research Activity |
東北日本海域という文化圏を想定し、秋田、山形、松前の往来物資料の所蔵状況について、順次、実地調査し、分類整理を行う。東北日本海域という想定についての妥当性についての再検討に加えて、北東北地域や日本海域といった文化圏についても資料を通して考察したい。すでに行ってきた北東北地域(青森・岩手)の所蔵状況調査との比較も行い、青森、岩手、秋田、山形といった地域における資料調査結果を総括し、それぞれの地域特性を明らかにする。近世期の東北地域における庶民生活について、往来物資料を通して考察検討することで、地域文化研究としての有用性を提示したい。 他方、近世期の日本(特に東北地域)の教育や文化事情、言語生活を明らかにするために往来物資料の研究をすすめてきたが、海外の研究者から、韓国や中国での往来物資料の活用についても教示助言を受けた。今後は必要に応じて、海外との交渉も視野に入れつつ研究をすすめたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
東北大震災によって、科研費の使用が確定しづらい状況(入金時期の遅延など)にあったこと、加えて、東北地域が調査対象だったため、震災の影響によって、調査の実施時期がずれ込み、計画通りにすすめられなかったこと等の要因で未使用額が生じた。 研究調査の推進のために、容量の多い最新のノートパソコンの購入を計画している。 実地調査のために秋田・山形・松前への出張旅費としての使用に加えて、個々の特徴的資料を比較検討するために他地域所蔵の往来物資料についての調査も必要となる。調査研究のための出張旅費、および、研究成果発表と研究学術交流のための旅費の使用を予定している。 23年度に中国の国際学会で研究成果を発表したが、その際、韓国の研究者から同様の資料で教育を受けたとの教示助言を受けた。中国や韓国の研究者との交流によって、新たな研究の展開と深化の可能性もあり、必要に応じて海外出張(韓国・中国)も検討課題である。
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