2012 Fiscal Year Research-status Report
東北日本海域における近世言語生活に関する研究-往来物資料からの分析-
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23520541
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
郡 千寿子 弘前大学, 教育学部, 教授 (50312476)
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Keywords | 地域研究 / 言語生活 / 往来物 / 東北 / 近世語 |
Research Abstract |
往来物は、日本社会の近代化に関わる重要な資料群であり、生活規範確立に寄与するものだが、発掘調査や資料的価値など、その研究は十分にすすんでいない現状にある。本研究は、東北地域所蔵の往来物資料の調査研究を基盤として、地域社会における言語生活の反映や文化形成に果たした役割などを解明し、新たな視点からの活用を提案しようとするものである。 すでにすすめてきた北東北地域(青森・岩手)所蔵資料との比較検討も目的のひとつであり、本研究期間内には、東北の日本海域の文化圏を想定し、松前、秋田、山形に限定して重点的に調査を実施する。近世期における北前船を利用した西廻り航路の存在は重要であり、陸路だけでなく、海路での物資輸送とともに文化の流入や混交があったことを資料研究を通して実証したい。 当該年度24年度は、山形県立博物館教育資料館に所蔵されている文献資料について調査を実施した。新たな往来物資料の発掘に加えて、それらを目的別、出版地別に分類整理し、考察検討を行った。23年度に行った秋田県立図書館所蔵資料調査との比較や日本海沿岸部の山形県酒田市立光丘文庫所蔵資料調査との比較を行うことによって、それぞれの地域における同質性や異質性といった特徴の一端について提示することができた。 秋田の資料群については、他地域に比して理数科往来資料の多いことが判明し、山形については、内陸部の山形と日本海沿岸部の酒田では、所蔵資料の出版地域に大きな差があることなど意義ある成果を得た。こうした諸特徴の理由や背景についての解明が今後の課題といえよう。 研究成果については、国際学会誌に1編、大学紀要に2編の研究論文として公表したほか、韓国の東亜大学と中国の延辺大学において特別講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年間の本研究期間において、松前、秋田、山形の地域において、往来物資料の所蔵状況について調査する研究計画であった。 すでに秋田、山形(日本海沿岸地域の酒田と内陸部の山形)は調査を実施し、目的別や出版地別に分類整理を行った。その研究成果も順次公表している。
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Strategy for Future Research Activity |
東北日本海域という文化圏を想定し、秋田、山形、松前の往来物資料の所蔵状況について、順次、実地調査し、分類整理を行う。函館はすでに調査し、近世期の往来物資料の所蔵がないことが判明しているが、松前地域についての調査が未実施のため、所蔵状況について確認する。それぞれの地域特性について検討するために、資料の分類整理状況を比較し、研究の意義や成果について公表していきたい。 東北日本海域という想定についての妥当性についての再検討に加えて、北東北地域や日本海域といった文化圏についても資料を通して考察検討したい。 近世期の日本(特に東北地域)の教育や文化事情、言語生活を明らかにするための基盤として往来物資料の研究をすすめてきたが、海外の研究者から、韓国や中国との関係性についても考慮の必要があるのではないかと助言された。今後は必要に応じて、海外との交渉も視野に入れつつ、研究をすすめたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
東北大震災の影響は、まだ多少残っており、東北地域が調査対象であることから、当初の研究が資金面でも物理面でも遅れがちとなった。 実地調査のための秋田、山形、松前方面への出張旅費に加えて、個々の特徴的資料を比較検討するために他地域所蔵の往来物資料の調査も必要となる。調査研究と研究成果発表、また研究学術交流や助言指導のための旅費の使用を予定している。
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