2012 Fiscal Year Research-status Report
言語運用における発想法の地域差と社会的・歴史的背景についての研究
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23520543
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小林 隆 東北大学, 文学研究科, 教授 (00161993)
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Keywords | 言語運用 / 発想法 / 地域差 / 社会 / 歴史 / 方言形成 |
Research Abstract |
本研究は、日本語方言における言語運用面の発想法の地域差と、それに影響を及ぼす社会的・歴史的背景との関連を検討し、その全体像について確実性の高い一定の見通しを得ることを目的としたものである。この目標を達成するために、本年度は次のような研究を行った。 (1)理論的検討:「社会と言語運用の関係モデル」と「言語的発想法」の概念・分類について、理論的な検討を進めた。現在、言語的発想法を7つに分類する方向で研究を進めているが、その妥当性について検討した。最終的に、7つの発想法を並列的に扱うのではなく、構造化して把握する必要があるとの結論を得た。 (2)実証的検討:研究文献からの情報の収集・整理を進めた。また、既存の調査データの整理・加工の一環として、配慮表現および感動詞の分野について、これまでの全国調査の結果を整理・加工した。とりわけ、配慮表現については、依頼・受託・拒否・謝礼・謝罪といった分野のデータを整備し、地域差の解明とその背後に潜む言語的発想法のあり方について考察した。 また、あいさつ表現についても、昨年度整理したデータの中から買い物場面を対象として選び、全国的な地域差を明らかにするとともに、言語的発想法との相関関係について検討した。さらに、重点地域調査の一環として、宮城県をフィールドとして、沿岸部の15市町の言語行動を会話の形で収録・文字化した資料を作成した。これは、13の日常場面を設定した調査であり、今後の言語運用研究の基礎的なデータにもなるものである。そこには、非定型的表現や直接的表現を好むなど、東北方言としての言語発想法上の特徴がよく現れていることがわかった。 なお、新たな全国調査については企画を進めたが、東日本大震災の影響がいまだ残る中、実施には至らなかった。このほか言語的発想法に影響を及ぼす社会構造について、関連分野の先行研究をもとに情報を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理論的検討については、「社会と言語運用の関係モデル」と「言語的発想法」の概念や分類について、考察を深めることができた。特に、当初から発想法を7つに分類してきたことに対して、その妥当性を検討しつつ、それらを構造化する見通しを得たことは大きな成果であった。 実証的検討については、全体として着実に研究を進めることができた。特に、これまでの調査データの整理が進み、分析の資料として十分利用できるようになった点は大きい。そのデータを使用することで、いくつかの具体的な成果を上げることもできた。まず、配慮表現については依頼・受託・拒否・謝礼・謝罪といった具体的な言語行動について、全国500地点分のデータに基づく分析を行った。また、あいさつ表現については買い物場面について、全国1000地点分のデータから考察を行うことができた。これらの成果は、いずれも学会で発表し、参加者から有益な意見を引き出すことができた。 これらの成果からは、当初から抱いていた言語的発想法の地域差についての仮説がほぼ妥当であるとの手応えを得ており、次年度の研究を進める大きなはずみになった。また、重点地域調査の一環として行った宮城県15市町における言語行動の会話収録も、基礎的なデータの蓄積に貢献するものであり、かつ、このデータからも、東北方言としての言語発想法上の特徴が把握できた点は大きな収穫であった。 一方、昨年度から実証的研究のひとつの柱に挙げていた全国調査が実施できなかったことは、当初の計画からの大きな遅れと言わざるを得ない。これは、東日本大震災による影響が予想以上に大きく、倫理的に見て、東北地方を中心に調査への着手を控えざるを得ないという事情によるが、本年度も引き続きそのような状況にあると判断した。しかし、調査項目の設計は行っており、来年度実施の準備は整えつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、理論的側面としては、「社会と言語運用の関係モデル」および、「言語的発想法」という概念と分類について引き続き吟味を進め、より妥当性の高いモデルに仕上げていきたい。また、言語行動の記録の方法論として、新たに、日常場面の会話収録の有効性について検討を行いたいと考えている。 次に、実証的側面については、言語的発想法を抽出するために、既存の資料の整備や新たな調査の企画によって現象面としての言語運用を把握していくつもりである。言語的発想法という概念自体が新しいものであるため、なによりも、その地域差を具体的に示す実証的なデータの収集・整備が必要になる。このうち、感動詞や配慮表現、あいさつ表現については、すでに収集した資料の整備を着実に進めており、分析も行っているが、言語行動の全般について、新たな全国調査の実施を急ぎたいと考えている。また、方言データのみでなく、それと比較対照すべき文献データについても、一定の範囲について蓄積を行う予定である。 最終的には、以上の理論的検討と実証的検討の結果を総合的に考察することで、言語運用面における発想法の地域差が、社会的・歴史的にどのように形成されてきたかを論じていくつもりである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実証的研究のひとつの柱に挙げている全国調査が、いまだ東日本大震災の影響で実施できていない。しかし、被災地はしだいに落ち着きを取り戻しつつあり、次年度の調査は可能ではないかと考えている。これまで調査項目や調査地点の設計など準備は着実に進めてきているので、次年度はいよいよ調査を実施に移したいと考えている。したがって、次年度には、繰り越した研究費を、調査関係の印刷費や調査票発送・回収の通信費、データ入力・整備費、作業者の謝金などに使用する予定である。 このほか、当初の予定通り、言語運用面に関する方言関係の蓄積データの分析を進めるとともに、言語運用の歴史的側面をも取り上げ、特にあいさつの種類・頻度についての文献調査を行う。また、重点地域調査の一環として、宮城県における言語行動の会話収集も本年度に引き続き行いたい。以上については出張費やデータ入力・整備費、作業者の謝金を支出するつもりである。
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Research Products
(7 results)