2013 Fiscal Year Research-status Report
言語運用における発想法の地域差と社会的・歴史的背景についての研究
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23520543
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小林 隆 東北大学, 文学研究科, 教授 (00161993)
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Keywords | 言語運用 / 発想法 / 地域差 / 社会 / 歴史 / 方言形成 / 配慮表現 / 感動詞 |
Research Abstract |
本研究は、日本語方言における言語運用面の発想法の地域差と、それに影響を及ぼす社会的・歴史的背景との関連を検討し、その全体像について確実性の高い一定の見通しを得ることを目的としたものである。この目標を達成するために、本年度は次のような研究を行った。 (1)理論的検討:「社会と言語運用の関係モデル」を改定し、「社会と言語活動の関係モデル」に修正した。また、「言語的発想法」の概念・分類について、引き続き理論的な検討を進めた。特に、7つの発想法に通底するものとして、「話し手と自己の分化」というシステムが重要であることを突き止めた。具体的に、東北方言の言語的発想法を明らかにするための理論的検討も行い、その発想法上の特徴が、言語運用面のみならず、言語構造面にも共通するのではないかという見通しを得た。 (2)実証的検討:昨年度対象とした配慮表現および感動詞の分野について、これまでの全国調査の結果を整理・分析し、地域差の解明とその背後に潜む言語的発想法のあり方について考察した。また、挨拶や喧嘩といった言語行動における地域差を、既存の方言会話データをもとに考察した。さらに、宮城県気仙沼市と名取市において、言語行動の枠組みに基づく約100場面の場面設定会話の収録を行い、文字化データを作成した。この会話データは、東北方言における言語運用のあり方とその発想法を知るための重要な資料となるものであり、実際、直接的表現や感情的表現を志向する東北方言としての発想法上の特徴がよく現れていることがわかった。 以上の成果をまとめ、公表するための原稿を執筆し、論文として発表した。なお、新たな全国調査については企画を進めたが、実施には至らなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理論的検討については、「社会と言語運用の関係モデル」を「社会と言語活動の関係モデル」に改め、さらに、7つの発想法を包括的に説明する原理である「話し手と自己の分化」という視点を得ることができたのは大きな収穫であった。その他、海外の関連する理論についての情報を得ることができたのは、この研究の視野を広げることに非常に役立った。 実証的検討については、これまで同様に全体として着実に研究を進めることができた。特に、これまでの調査データを使って、配慮表現や感動詞についての具体的な分析ができたのは大きかった。これによって、7つの発想法を実証的に検討することが可能になった。また、言語行動の枠組みに基づく約100場面の調査結果も、新たな会話収集の方法論を学界に提案するとともに、東北方言らしい会話の実態を観察するのに役立った。 一方、懸案の課題となっていた全国調査が実施できなかったことは、当初の計画からの大きな遅れと言わざるを得ない。これは、東日本大震災による影響が予想以上に大きく、倫理的に見て、東北地方を中心に調査への着手を控えざるを得ないという事情があったことと、上記の100場面調査の計画・実施にかなりの労力を費やしたことが原因である。ただ、この100場面調査の結果は被災地への還元も行っており、調査の環境が整いつつあることから、平成26年度にはぜひとも全国調査を実施したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに行った(1)理論的検討と(2)実証的検討を合わせ、総合的な考察を行う。地域差の実態とその社会的背景・成立過程について明らかにしていく中で、あらためて、「社会と言語活動の関係モデル」や「7つの言語的発想法」を吟味し、一定の結論を得る。 また、全国的に見た配慮表現やあいさつ表現、感動詞などの地域差を明らかにすることで、実証的に上記の理論を検討していく。特に、東北方言の言語的発想法が、他の地域に比べて非常に特異であるという仮説の検証を行うことで、従来知られている言語構造面の特徴のほか、言語運用面からも東北方言の特質を明らかにしていく。 さらに、課題として残っている新たな全国調査を実施することで、理論面・実証面の両面に役立つ基礎資料を整備するつもりである。 以上のような作業を通して、最終的に、言語運用面における発想法の地域差が、社会的・歴史的にどのように形成されてきたかをまとめあげていく。その成果は研究発表や論文・書籍として公表したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた理由は、当初今年度に予定していた、表現法・言語行動の地域差に関する全国的な大規模調査が実施できなかったことによる。この調査には、調査票の印刷費や発送費、またその作業や整理に関わる経費が必要となり、それを今年度に見込んでいたが、調査が実施できなかったことによって次年度使用額が生じてしまった。 次年度には、今年度実施できなかった上記の全国調査を実施するつもりであり、その準備は整いつつあることから、間違いなく使用の予定である。また、報告書の作成・刊行等の作業は計画通り実施できる見込みであり、当初から予定していた次年度の助成金はそのまま使用するつもりである。
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Research Products
(6 results)