2013 Fiscal Year Research-status Report
日本語史研究における抄物資料の活用促進のための研究
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23520547
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
坪井 美樹 筑波大学, 人文社会系, 教授 (40114300)
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Keywords | 抄物 / 聞き書き / 商量 / 中世日本語 / 口語性 |
Research Abstract |
本研究は、中世後期の日本語資料である抄物資料を、より多くの日本語研究者による多様な研究目的に即した利用を可能ならしめるために、抄物資料成立の場や状況、その言語の性格を解明し、一般にわかりやすく共有できる情報として提供することを目的とする。 平成25年度は、上記の目的に沿い、以下のように研究を進めた。 ①抄物資料中のデータ整理作業とデータ入力作業の補助のために、中世~近世日本語史を専門に研究している大学院生を雇用し、「抄物資料の口語性の解明」と「抄物成立の場の具体的状況の解明」のための基礎データ整備を実施した。 ②上記のデータを基に、抄物資料成立の場の解明研究の成果として、論文「抄物が生まれる現場(商量を伴う場合)―東京大学史料編纂所蔵本『人天眼目抄』を例として―」(筑波大学人文社会科学研究科日本語学研究室研究誌『筑波日本語研究』第18号 平成24年1月刊 坪井単著論文)を執筆した。 ③『三体詩抄』等を例とした抄物の講述文体における「口語性」解明については、平成24年3月に中国北京大学で開かれた日本語研究フォーラムに参加した折、『三体詩抄』を研究している中国人研究者と意見交換する機会を得た。 ④しかし、当初予定していた上記中国人研究者の日本招聘は当該研究者の勤務先(北京師範大学)の都合で実現できず、『三体詩抄』に関する研究は予定したところまで進展させられなかった。このため、当該研究者との共同執筆部分を含む研究成果報告書の作成も遅延し、本科研費に未使用額が発生し、補助事業期間の延長を申請、許可された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の最終目的は、中世後期の貴重な日本語資料である抄物資料を、より多くの日本語研究者による多様な研究目的に即した利用を可能ならしめることにあるが、そのためには抄物資料成立の場の具体的状況とその講述調文体の持つ口語性の特質を明らかにする実証的な研究を進める必要がある。しかし、その研究実践が以下のような要因で進展が遅れている。①本研究の目的に密接に関わる研究成果(柳田征司『日本語の歴史3中世口語資料を読む』、同『日本語の歴史4抄物、広大な沃野』が平成24、25年に相次いで刊行され、その成果の吸収に時間を要したこと、②中国人研究者・韓国人研究者との共同研究・意見交換が相手方勤務先の都合などで十分実施できなかったこと、③当初予定していなかった「抄物資料における授受表現発達の研究」という新しい観点に研究代表者の問題意識が広がったこと、等により研究の進展が遅れ、研究の目的の達成度が低いものとなってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で目指した目的の一部(日本語史資料としての抄物資料の持つ意義)は、学界的にはここ1~2年の間に刊行された研究成果、柳田征司『日本語の歴史3中世口語資料を読む』、同『日本語の歴史4抄物、広大な沃野』、野村剛史『話し言葉の日本史』、同『日本語スタンダードの歴史』等で達成されている面があるので、本研究としては当初の目的を絞って、①抄物成立の場の具体的な状況の把握、②抄物資料の「口語性」はどのようにして生まれたか、③「授受表現史の資料としての抄物資料」のような日本語史研究の新しい課題における抄物資料の価値の紹介、というそれぞれの観点からの抄物研究成果を広く学界に提供することを目指すこととしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に、中国人研究者及び韓国人研究者と相互訪問して抄物研究に関する意見交換を行い、研究成果のとりまとめを行う予定であったが、中国人研究者の日本招聘が当該研究者の勤務先(北京師範大学)の都合で実現できず、『三体詩抄』の原典本文と抄文との関係に関する研究が予定通り進まなかった。これに連動して、当該中国人との共同執筆部分を含む、研究成果報告書の作成も遅延し、未使用額が発生した。 次年度には、平成25年度十分実現できなかった中国人研究者との『三体詩抄』研究に関する意見交換と、抄物資料活用のための論点を絞った研究報告書の作成を行う予定であり、未使用額はこのための旅費と印刷製本費に充てる予定である。
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