2012 Fiscal Year Research-status Report
九州方言の音韻現象における接触・伝播・受容プロセスに関する研究
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23520554
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
有元 光彦 山口大学, 教育学部, 教授 (90232074)
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Keywords | 九州方言 / 音韻現象 / 接触 / 伝播 / 受容 |
Research Abstract |
本研究の目的は,九州方言における特異な音韻現象(テ形音韻現象)を対象として,異なる方言タイプが隣接する地域で見られる接触・伝播・受容現象を観察し,これらのプロセスを説明するための理論的枠組みを構築することにある。 本年度は,観察・記述の点においては,熊本県天草諸島のフィールドワークを実施し,新たなデータの蓄積を行った。島嶼部の現地調査は,交通の便の関係で,調査しにくい問題があるが,本研究の目的であるシステムの解明のためには,地理的に細かい地点に対する網羅的な調査が必要であり,この点から言っても,少しずつデータが蓄積されていることには意義があると考える。 また,理論的研究においては,まずテ形音韻現象の新たな方言タイプが発見されたことが実績として挙げられる。平成23年度にフィールドワークを実施した熊本県北東部方言及び大分県中西部方言を分析した結果,今までに発見されていなかった新たな方言タイプが見出された。これらについては,ある程度理論的に予測可能なものであるが,実際に発見されたことには大きな意義があり,さらに別の新たな方言タイプが存在することを予測するものである。 さらに,2つの異なる方言タイプが共生する方言(共生タイプ)も新たに発見され,その事実をもとにして,共生タイプの形成プロセスの理論的解明が発展している。もともとは2つの異なる方言タイプが独立して存在していたものが,地理的に接触することによって,両方の方言タイプを部分的に持った特異な方言が誕生したことになる。この形成プロセスを今後さらに追究することによって,接触・伝播・受容現象の統合的な解明に貢献できるものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論的研究に関しては,新たな方言タイプの発見もあり,おおむね順調に進展していると考えられる。 しかし,そのもととなるデータの収集,即ちフィールドワークに関しては,交通状況や現地協力者との交渉等の問題があり,少し遅れている状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は,方言データの収集,即ちフィールドワークを優先したい。特に,異なる方言タイプが隣接する地域,テ形音韻現象が見られる地域と見られない地域との中間地域,及びテ形音韻現象が存在する可能性のある未調査地域を,重点的に調査していく計画である。 また,平成25年度後半では,最終年度ということもあり,理論的研究に関しても総括をしていく。接触・伝播・受容現象の体系的な解明を試み,これらの現象を司るシステムを仮定する。このような理論の構築は,今後の方言データ収集の際にも参考となると考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度においては,主に(1)調査旅費,(2)研究成果報告書の作成,として研究費を使用する計画である。 (1)に関しては,長崎県本土東北部,熊本県島嶼部,鹿児島県北西部等を調査地点として考えている。特に,熊本県島嶼部・鹿児島県北西部については,前年度までに十分な調査時間が確保できなかったため,今年度改めて補足調査を行うものである。そのために,次年度使用額が生じている。その他の地点については,当初の計画通り,新たな調査地点として設定するものである。 (2)に関しては,収集した方言データの記述,接触・伝播・受容現象を説明するための理論構築等を総合的にまとめた報告書を作成する計画である。さらに,この報告書は関連する専門領域を持つ研究者に頒布することによって,本研究課題に対する議論を活性化させることを考えている。
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Research Products
(2 results)