2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520562
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
米谷 隆史 熊本県立大学, 文学部, 准教授 (60273554)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 節用集 / 色葉集 / 色葉字集 / 聚分韻略 |
Research Abstract |
本研究は、17世紀初頭に九州で書写された A 諫早文庫蔵江戸前期写『節用集』と、B 慶應義塾図書館蔵元和6年写『色葉集』 について、 イ)文献方言史資料としての定位 を行い、 ロ)室町末から江戸前期の辞書観の検討 を進めることを目的として計画した。23年度当初は(1)A・B両本の系統上の位置づけの調査 (2)A・B両本の成立文化圏の調査 の実施を予定し、年度途中より(3)九州内刊行の『聚分韻略』諸本と加筆付訓の調査 を追加して実施した。各項の概要は次の通り。 (1)A本については、古本節用集諸本との対照から、印度本類、特に図書寮零本や黒本本との近縁関係が明確になった。B本については、相近い所収語を有する東京大学文学部国語研究室蔵の天正二十年写『色葉字集』の原本調査を実施し、複写では不分明であった付訓や清濁の状況を確認した。これを踏まえてB本と『色葉字集』との対照を行った結果、両本が(何らかの中間段階を経つつも)同一の辞書から派生したこと、B本には『色葉字集』には見られない独自部分が存し、九州方言とされる語形は主にその独自部分に見られること、が明らかとなった。 (2)A本については、所蔵先担当者との日程が合致せず、調査を延期することとした。B本については、同本中に所持者として記名の存する「西喜内」等が延岡藩士であることが確認できる等、同書の伝来が明らかになりつつある。また、『色葉字集』については、奥書に存する「山辺郡桃尾山龍福寺」を手がかりに、天理市の古刹大親寺に照会を行った。当時を語る古文書の残存は少ない旨の教示があったが、同本が同寺において書写された可能性が高いことが明らかとなった。 (3)薩摩版や日向版『聚分韻略』諸本を調査した結果、加筆付訓に他地域刊行版本の加筆付訓には見られない語形が散見されること、及び、その一部がB本の独自部分に存する語形に一致することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要(1)について/A本については、計画前に実施済であったイロハ各部の見出万葉仮名や意義分類の構成等の形式的な調査に加え、語順や所収語の面からする系統関係の位置づけが計画通り進捗し、主たる比較対象として考察を進めるべき古本節用集の範囲が絞られつつある。B本については、辞書本文全体に亘って、奈良で書写された『色葉字集』との密接な関係が確認されたことで、B本の独自部分に着目した調査を優先して行うという方向性を確定することができた。 研究実績の概要(2)について/A本の周辺調査については、現地調査が実施できなかったため、計画よりも遅れているといわざるを得ない。しかし、B本に関しては近世中期までの伝来が確認され、さらに、近世中期の所蔵者が書写地である高千穂にゆかりの家系であったことも判明していることから、当初計画以上の進展が見られる。本書の地域性を論ずる際の根拠がより強固になったといえよう。また、B本と対になる『色葉字集』の書写地についても、大親寺関係史料の調査により、ほぼ確定することができた。 研究実績の概要(3)について/(1)の調査を実施する過程で、文明年間・享禄年間にそれぞれ薩摩・日向で刊行された『聚分韻略』伝本に存する加筆付訓に注目すべきことが明らかとなった。これらの検討には、九州内での加筆であるか、加筆の時代はいつか、というような問題は存するものの、地域における辞書享受のありようを明らかにしていく際の重要な視点を新たに得たものと考えている。 以上のように、本研究の目的である「文献方言史資料としての定位」については、若干の現地調査が未実施となったものの、着実に前提が固められてきており、「室町末から江戸前期の辞書観の検討」についても、『聚分韻略』諸本への着目等、新たな視点を得た。したがって、23年度に関しては、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)23年度未実施調査の遂行/23年度に所蔵先担当者と調整がつかずに実施できなかった諫早文庫の関連辞書調査、及び、短期間で実施した高千穂・延岡地域の再調査を実施し、成立文化圏研究の補充を行う。 (2)A・B両本の系統上の位置づけの明確化/九州方言的な特徴な顕著なB本を中心に調査を進める。これまでの調査内容を踏まえた上で、B本及び『色葉字集』が、色葉集諸本の系統上、どこに位置づけられるかの検討に着手する。併せて、所収語を意義による分類で掲出する和名集諸本についての閲覧調査も必要に応じて行っていく。広島大学本『和名集』等、現在手元に画像がない古辞書については、原本調査の上で画像の収集を行うこととする。また、この調査に付随して『聚分韻略』古版本の画像収集も可能な範囲で実施する。ただし、色葉集・和名集諸本は個々に組織や所収語が異なるものが多いため、対照調査を行った結果、系統関係よりも個々の独自性が明確になるという結果になることも予想されるところである。その場合は下記(3)の作業を優先する。 (3)A・B両本に独自の所収語の方言的性格の検討/A本については、23年度の作業を踏まえ、他の節用集には見られない独自の所収語のリストを作成し、『日葡辞書』やその他の同時代資料、及び現在の方言分布との比較作業を進めていく。また、『日本大文典』等に言及される音韻的特徴の存する語のリストを作成する。B本については、『色葉字集』との対校本文の作成に着手する。A本についての調査と同様、『日本大文典』等に言及される音韻的特徴が存する語には特に注目することとなろう。 (4)口頭発表の実施/A・B両本は多様な視点からの吟味が必要な辞書であるため、早い時期に、その資料的位置づけに関する口頭発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
●物品費(8万円)1万円未満切り捨て(以下同)/勤務校に不足している方言・古辞書関係書籍の購入を主とする。●旅費(28万円)/広島大学・奈良方面・国文学研究資料館・東洋文庫等での原本調査の旅費を主とする。なお、前年度繰り越し分は、前年度に未実施の諫早文庫調査及び、短期調査のみであった高千穂・延岡地域再調査に充てることとする。●人件費・謝金(0円)該当なし。●その他(9万円)/古辞書の複写・紙焼き写真購入費用を主とする。●合計45万円
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