2011 Fiscal Year Research-status Report
データベース構築に基づく明恵関係聞書類の記述的研究
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23520566
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
土井 光祐 駒澤大学, 文学部, 教授 (20260391)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 中世語 / 鎌倉時代語 / 明恵 / 法談聞書類 / 高山寺 / 光明真言土沙勧信記 / 解脱門義聴集記 / 真聞集 |
Research Abstract |
本年度は、明恵上人高弁(1173~1232)関係の法談聞書類である金沢文庫蔵「解脱門義聴集記」の文脈付きの語彙索引、漢字索引を作成することを企図して、電子化テキスト上にて本文校訂を行いつつ、解読注を付す作業を進めた。「解脱門義聴集記」の内部構造は、(a)注釈対象となる原典の章句(見出し)、(b)明恵による講義の聞書部分、(c)喜海による講義の聞書部分、(d)聞書者・編者の私注、(e)他典籍からの引用増補部分、の概ね五種の性格の異なる構成要素から成り立っているが、各漢字、各形態素が上記五種のどの部分の用例であるかがわかるように、電子化テキスト本文上に、上記の構成要素の別を入力した。又、いわゆる文脈表示のために文節単位で区切り符号を入力した。次に、漢字をすべて抽出して、MS-Excelに移植し、本文内の所在、使用された文章構成要素の種類、『大漢和辞典』番号を付加し、当該漢字の使用された文節の前後2~3文節単位で表示する、いわゆるKWIC形式のデータベースの作成を進めた。本文校訂、漢字字体の判断と処理に課題が残っているが、作業の進展に伴って相補的に検討、修正を加えていく予定である。 又、法談聞書類の成立背景と本文の性格を解明する為の一方法として、明恵の撰述書である大東急記念文庫蔵「光明真言土沙勧信記」と明恵口述に対する聞書類である高山寺蔵「真聞集」所収の本文とに共通部分が存在すること、「真聞集」の識語の検討及び両者の比較作業の結果、明恵の撰述書が口頭の言説に乗じて読誦されることがあり、それが記録されて新たな聞書が成立するという事例があったこと等を明らかにした。明恵の口頭の言説、それを類聚した聞書類、仮名書きの撰述書との間に、連続的な側面を有する場合があり、国語史資料としての把握に際しては、注意を要することを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「解脱門義聴集記」の本年度における原本調査は実施していないが、精細な原本写真によって本文校訂を進めることができた。写真では判読しづらい点については、原本調査が不可欠となるので、全巻の本文校訂、解読注の付加作業が終わった段階で原本調査を実施し、問題点の解決を図る予定である。 高山寺に所蔵される関連資料については、二回の原本調査を実施して研究資料に加えることができた。東大寺総合文化センター所蔵資料については、東大寺図書館から東大寺総合文化センターへの改組が行われた関係で、関連資料の原本調査が未実施である。 電子化テキスト上における内部構造の分類は、更に詳細な分析を要する点があるが、概ね予定通りに進行中である。 本文を確定するに際しての問題点の一つに、漢字字体の認定方法があり、検討すべき課題が残っている。原本の漢字字体を電子化テキスト上にどの程度忠実に再現するか、新旧漢字の別をどうするか、異体字をどのように包摂するか等は、古典籍の本文提供を行う際の宿命的な課題であるが、従来、最善の方法に対する定見は必ずしも確立していない。この点は、本研究の進展を妨げている原因の一つとなっているが、漢字データベースの構築の進展により相補的に解決し得ることも多いので、データベース作成の過程で、より適切な処理法のあり方を同時に検討しつつ進展させたいと考えている。 又、「解脱門義聴集記」の字音語は基本的に呉音形を原則とするが、すべての字音語に対して、その音形(仮名書き)を与えるには、判断に迷う場合も多い。慣習的な呉音形で示すか、或いは、日本漢字音史の研究成果を踏まえて厳密に文献で実証された呉音形で示すかという問題は、必ずしも定見が確立しておらず、作業を遅らせる一因となっている。現段階では、データベースとしての実用性を重視して、慣習的な呉音形による統一的な処理を行った方が利便性が高いと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
高山寺及び、昨年度実施できなかった東大寺総合文化センター所蔵の関連資料の原本調査を実施する予定である。 データベース構築に際して、解決すべき課題としては、(1)適切な翻字本文の提供と漢字索引の利便性との関係に配慮した、漢字字体の認定と包摂基準の設定、(2)データベースとして用例を提示する際のコンテキストの示し方の検討、(3)本文内に導入された漢文体の引用文等、訓読が必ずしも想定されてない部分の扱い方の検討、(4)語彙索引を作成する際の字音表記の認定方法(検索の便を考えて慣習的な呉音形で示すか、或いは日本漢字音史の研究成果を踏まえて厳密に文献で実証された呉音形で示すか)の確定、等が挙げられる。 これらはいずれも国語史資料として本文を提示する際に付随する不可避の課題であるが、単なる技術論のレベルでは解決できない難題を含むので、適宜これらの検討、判断を進めながら、データベースの構築を進展させていきたい。 データベースの構築に際しては、リレーショナル型データベースソフト(MS-Excel)を最大限利用する予定で進めているが、データの処理方法において専門識者の知見を得なければならない点がある。昨年度は漢字字体の処理方法に課題が残っていたので、一気にデータ処理を進めることができなかったが、本年度はこの点の方針を定めた上で、適宜専門識者の助言或いは専門業者へのデータ処理の外注を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
明恵関係法談聞書類、特に「解脱門義聴集記」の語彙、漢字データベースの構築を目的として、次の諸項目に支出する予定である。○明恵関係法談聞書類に関連する古典籍資料の原本調査(高山寺(京都市右京区)所蔵資料の原本調査3泊4日×2回(182,000円)、東大寺総合文化センター所蔵資料の原本調査2泊3日×1回(73,000円))。○データベース構築のためのデータ処理、プログラム構築の外注(200,000円)。○中古語中世語を中心とする日本語史関係図書、パソコンマニュアル類の購入(50,000円)。○パソコン関係消耗品(アプリケーションソフト、メモリ類、ケーブル類等)の購入(140,000円)。○文房具類の購入(5,764円)。○データベース構築のためのデータ入力、資料整理のためのアルバイタの雇用(100,000円)。
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