2012 Fiscal Year Research-status Report
データベース構築に基づく明恵関係聞書類の記述的研究
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23520566
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
土井 光祐 駒澤大学, 文学部, 教授 (20260391)
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Keywords | 鎌倉時代語 / 中世語 / 明恵 / 法談聞書類 / 高山寺 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、明恵上人高弁(1173~1232)関係の法談聞書類である金沢文庫蔵「解脱門義聴集記」の文脈付きの語彙索引、漢字索引の作成作業を継続させた。原本写真に基づく本文校訂を電子化テキスト上にて実施し、解読注を付す作業を進めた。漢字索引に関しては、文脈表示のために文節単位で区切り符号を入力した後、漢字をすべて抽出して、MS-Excelに移植し、本文内の所在、使用された文章構成要素の種類、『大漢和辞典』番号を付加し、当該漢字の使用された文節の前後2~3文節単位で表示する、いわゆるKWIC形式のデータベースの作成を進めた。漢字字体の把握とその処理に不統一が残っているが、電子化テキストに基づく漢字索引であるので、基準を明確化しつつ、できる限り包摂化を行うことによって、実際の漢字字体を一元的に検索できるように工夫した。語彙索引に関しては、漢文部分の漢語の処理方法、複合語、派生語の処理等に課題が残っているが、漢字索引、語彙索引の作成作業の進展に伴って相補的に検討、修正を加えていく予定である。 又、明恵及びその法流にある学僧の聞書類を多く所蔵している京都栂尾・高山寺において、関係資料の原本調査を実施した。特に、明恵の学説を記録した、比較的大部の聞書類である「観智記」「栂尾御物語」「真聞集」は重要文献であって、原本調査に基づいて本文の翻字を校訂し、データベース化に耐え得る正確な電子化テキストの作成に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
データベース化の対象としている「解脱門義聴集記」は、以下に述べるように、一般的な国語文とはかなり異質な側面を有しており、その処理方法の検討と実際の作業とに予想以上の時間を要している。即ち、「解脱門義聴集記」は漢字片仮名交り文で記された聞書部分の口語性に特に国語史上の価値が期待されているが、資料全体から見れば、聞書部分は6割強に過ぎず、具体的には、次の五種類が成り立っている。(a)注釈対象となる原典の章句(見出し)。(b)明恵による講義の聞書部分。(c)喜海による講義の聞書部分。(d)聞書者・編者の私注。(e)他典籍からの引用増補部分。 これらは自ずと言語的性格を異にするものであるから、データベース化に際しては、各形態素、各漢字の所在表示に際して、その区別を注記し、相互の語彙的特性を比較し得ることが理想である。本データベースの最大の特徴はこの点を実現することにあるが、必然的に、漢字表記部分のデータベース上の処理をどのようにするかという課題を克服しなければならない。特に、他典籍からの長大な漢文の引用部分は、日本語による注釈文の一部を形成していると共に、原典漢文の一部という性格を兼帯している。「総索引」を目指すならば、資料内に使用された言語は余すところなくデータベース化しなければならないが、漢文部分の大半は無点であって、読みの確定が困難である。漢文部分の漢語としての意義の区切れによって処理を行うことを試験的に行っており、これに膨大な時間が取られているが、注釈文として使用された言語と引用漢文としての言語とを同列に扱うことに果たして意義があるのかどうか、未だに確定的な結論が出ていない。 以上のように、データベースの進展に従って、一つ一つの漢語の処理にその都度累加的に修正を加えつつ、作業を進めざるを得ず、予想外に時間を要しているのが実情である。
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Strategy for Future Research Activity |
原本調査(神奈川県立金沢文庫、高山寺、高野山大学図書館、東大寺図書館)を継続させながら、本格的な語彙データベースの作成を目指して作業を継続させる。作業手順としては次の通りである。 第一に、「解脱門義聴集記」の本文校訂の精度を高めると共に、データベース作成の進展に伴って漢字表記語の読みの精度を高めていく。第二に、形態素認定の不統一を修正しながら、内部構成要素との関係をデータベースに反映していく。第三に、京都栂尾・高山寺等に所蔵されている聞書類、関係資料の調査を継続して、資料的性格の具体相をより明確にし、言語的特質の異同を検討していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
関連する古典籍資料の原本調査に伴う出張(京都・高山寺、東大寺図書館、高野山大学図書館)、電子化した校訂済み本文と語彙データベースの情報とを関連させるためのプログラム作成の外注、関係書籍の購入、関係論文の入手、コンピュータ関連のアプリケーションソフトの更新と関連消耗品の購入への使用を予定している。
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