2011 Fiscal Year Research-status Report
明治後期の学術用語の伝播・浸透と現代日本語への影響に関する研究
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23520567
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
真田 治子 立正大学, 経済学部, 教授 (90406611)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 日本語学 / 計量言語学 / 語彙論 / 辞書論 / 哲学字彙 / 近代語研究 / 井上哲次郎 / 学術用語 |
Research Abstract |
本研究課題の主たる調査対象である『哲学字彙』の著者井上哲次郎は、英独仏和版とほぼ同時期に出版された『哲学大辞書』(同文館)編纂にも関わっている。『哲学大辞書』は上海で出版された事典類に大きな影響を与えていることが事典類の前書きから判明しているので日中の語彙の交流についても分析を行い、大正時代に入り漢語から外来語への移行を見せ始めた語彙の変化の一端を調査した。また現代までの語彙の総体としての大きな変化をとらえるために、ドイツを中心に新しく開発されたh指標を使った語彙分析の手法について日本語のデータで検討を行った。 これらの成果は、『近代語研究』の他、パーダーボルン大学(ドイツ)における招待講演、第7回アジア辞書学会、近代語学会2011年度第2回研究発表会、7th International Conference on Missionary Linguistics(於Bremen University)で発表した。 日本の哲学大辞書を参照し上海で出版された学術用語集の見出し語と訳語を、A~Dまで哲学大辞書と比較した。見出し語の約3分の2が哲学大辞書から採用されており見出し語が採られた場合はほとんどの場合日本語の訳語も中国語の訳語として採用されていることがわかった。著者はイギリスとカナダの宣教師で、前書きに出版の経緯や当時の日本語の流入状況、先に同じ団体が関連した術語集などの言及があり、それらの裏付け調査を行った。その結果、著者の一人は哲学大辞書の初期の版が出た時期に東京を訪れており、このあたりの時期の版が参照されたのではないかと推定した。 また哲学字彙初版が参照したとされるFlemingの辞書は版が特定されていない。先行研究で指摘されている二版、三版、アメリカ版の他に今回Krauth版を発掘し比較を行ったところ、Fleming三版では4割ほどの一致率が6割まで上がった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の主たる調査対象である『哲学字彙』と同時代の特定の資料群について、従来は明らかにされてこなかった関係性が一部ではあるが認められ、今後の調査対象についての方向性が固まった。また語彙の計量的分析にあたって、海外で開発された手法が日本語にも十分適用可能であることが確かめられた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の主たる調査対象である『哲学字彙』との関連性が明らかになった資料群について引き続き比較調査を行う。また語彙の計量的分析手法の開発については、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』が公開されたので最新の資料も加えて分析を行う。 また成果についてはIQLA(International Quantitative Linguistics Association: 国際計量言語学会)(於ベオグラード)での発表を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
引き続き語彙データや辞書データの比較調査を行うため、それらに必要なソフトウェアの購入、資料整理や英文校閲のための人件費、海外で成果発表を行うための旅費などの支出を計画している。
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Research Products
(5 results)