2014 Fiscal Year Research-status Report
明治後期の学術用語の伝播・浸透と現代日本語への影響に関する研究
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23520567
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
真田 治子 立正大学, 経済学部, 教授 (90406611)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 日本語学 / 計量言語学 / 語彙論 / 結合価理論 / 哲学字彙 / 近代語研究 / 井上哲次郎 / 学術用語 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は本研究課題の主たる調査対象である『哲学字彙』に収録されていた学術用語が現代日本語に浸透していく過程について、これまでに得られた知見を集約してその流れの概略をまとめ、「日本語学会2014年度春季大会70周年記念シンポジウム」で「招待講演・明治期の学術用語が一般化するまで」として発表した。その再調査の過程で、明治時代の翻訳専門書や中学教科書、講義録等に『哲学字彙』の学術用語が訳語として取り込まれている様子がうかがえ、様々な資料の冒頭部分についてその可能性を調査した。この結果は論文集『近代語研究』第18集、同『日本語史の研究と資料』、日本近代語研究会研究発表会等で発表したが、狭い範囲の調査に限られているため、今後調査範囲を広げて知見の確度を高めたい。また語彙はこれまで意味や文字との関係が論じられてきたが、語彙が文構造全体に与える影響も考慮すべきと考え、その関係性を計量的に説明する方法を検討した。成果はQUALICO2014(国際計量言語学会2014年大会、国立国語研究所コーパス日本語学の創成プロジェクト共同研究発表会、論文集『Empirical Approaches to Text and Language Analysis』等で報告した。このうち国立国語研究所プロジェクト共同研究発表会での発表は、海外の計量言語学者によって長く研究されている「Menzerath-Altmannの法則」(言語の語、節、文、文章など様々なレベルにおいて、より大きな構築物はより小さい構成要素から成るという経験的法則)について、日本語の節、項・付加詞等、形態素の間の計量的関係を調査したもので、「Menzerath-Altmannの法則」に関する国内で初めての発表である。このような語彙と構文に関する計量言語学的モデルを構築し語彙史研究に生かすべく、引き続き検討を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
明治期の学術用語の歴史については、『哲学字彙』と周辺資料を再調査した結果、編者の留学経験が辞書編纂にかなり影響していることが再確認できた。また編者のその後の著作物にもその影響が見えることが、明治時代の翻訳専門書や中学教科書、講義録等の抽出調査から確認できた。昨年までに口頭発表を行った「明治時代後期の学術用語が20世紀初頭の中国の学術用語集へ伝わり、西洋人の宣教師を介して中国での学術用語策定の一助となった」という研究成果については論文にまとめ、投稿準備を行った。語彙研究の計量的分析については、語彙が文構造全体に与える影響を計量的にとらえる試みを行い、「『は』か『が』か『主語省略』か」というような、主格を示す助詞の選択と省略の頻度分布について論文集『Empirical Approaches to Text and Language Analysis』で報告を行った。例えば「目的語は『を』が先か『に』が先か」のような、格助詞を伴う項の出現順序の分布についてはQUALICO2014(国際計量言語学会2014年大会で報告を行った。国立国語研究所プロジェクト共同研究発表会で報告を行った「Menzerath-Altmannの法則」に関する研究では、節と形態素については数的な関係性は有意になったが、項・付加詞に関わるレベルでは有意にならない。これは動詞が項・付加詞に与える文法的及び意味的制約や、項・付加詞が含まれる節の深さ、項・付加詞と述部との距離などが影響を与えていると考えられる。このような自律的調節機能は日本語の自然さを形成する一因になっているのではないかと思われる。日本語の語彙と構文に関する計量的なモデルの構築が進めば、近代から徐々に日本語の基礎的な部分に浸透してきた学術用語が現代日本語の文全体にどのように影響を及ぼしたかについても探ることができるのではないかと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の主たる調査対象である『哲学字彙』の学術用語と、編者の翻訳・執筆した著作物との関係について、範囲を広げて調査を行う。また語彙の計量的分析手法の開発については引き続き『現代日本語書き言葉均衡コーパス』や結合価辞書を使った解析を進め、国際計量言語学会ワークショップ(於パドヴァ大学)等での発表を予定している。
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[Book] 日本語大事典2014
Author(s)
佐藤武義, 前田富祺, 工藤真由美, 坂梨隆三, 迫野虔徳, 杉戸清樹, 早田輝洋, 飛田良文, 村上雅孝, 山梨正明, 湯澤質幸, 吉田和彦, 真田治子他
Total Pages
2456 (1497-1497)
Publisher
朝倉書店(東京)