2012 Fiscal Year Research-status Report
近世における日本語研究の再評価―本居宣長,春庭の認知的意味への視点―
Project/Area Number |
23520568
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Research Institution | Kanazawa Seiryo University |
Principal Investigator |
中村 朱美 金沢星稜大学, 経済学部, 教授 (50325586)
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Keywords | 日本語学史 / 認知意味論 / 自他表現 / 空間認知 |
Research Abstract |
本研究の目的の一つは,本居宣長,春庭における学説形成において,同時代の日本語研究が与えた影響について検討を進めることであった。具体的には,本居宣長とほぼ同時代を生き,日本語における助詞・助動詞研究の大成者である富士谷成章の影響であり,宣長を中心とする本居学派と富士谷成章との学問的交流を立証するものとして筆者が発掘した『語法手扣』『てにをは扣』(本居宣長記念館所蔵)と仮称されている資料の内実を詳細に調査し,検討を進めることである。 『語法手扣』『てにをは扣』の両資料は,従来,周辺の間接的資料により推測されるにすぎなかった宣長を中心とする本居学派と富士谷成章との学問的交流を立証する具体的資料であり,研究史における空白を埋める極めて重要な位置を占めるものと言える。本居宣長記念館には,周辺資料も含め,宣長や春庭にかかわる膨大な資料が所蔵されており,今なお,その位置付けが確定されていない資料も数多く存しているが,『語法手扣』『てにをは扣』もまた位置付けが確定されず,埋もれていた資料であった。本居宣長記念館における資料調査では,両資料をはじめ,丹念な調査を続けていく必要があるが,富士谷成章の日本語観には宣長の視点と共通するものもあり、春庭の学説形成への直接的影響を時代性という枠組みの中に実証的にとらえ直すことが可能となったのである。 本居学派の学説形成における富士谷成章の具体的影響を検討し,研究史の空白を埋めることを課題とする本研究の意義は大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本居宣長,春庭における学説形成において,同時代の日本語研究が与えた影響について検討を進めることが本研究の第二の目的であった。この目的を達成するために必要不可欠である本居宣長記念館における資料調査(『語法手扣』『てにをは扣』)については当初の計画通り実施でき,平成24年度における現地調査の計画は達せられた。しかしながら,調査結果を整理し,まとめる作業が遅れ気味である。
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Strategy for Future Research Activity |
本居宣長の『玉あられ』における記述には,現代の認知言語学における言語事象のとらえ方を先取りする「言語に対する視点」が断片的ではあるが存している。宣長のこのような言語事象への姿勢は,先行研究においてはいまだ着目されていないものであり,認知言語学的観点からアプローチすることにより再評価したい。 また,宣長の日本語研究における「認知的意味への視点」は,春庭の動詞自他論に継承・結実していくことを明らかにしたうえで,春庭の動詞自他論のコアとなる「おのづから然る・みづから然する」という術語を「日本語動詞が反映する空間認知の特徴」をとらえているものと解釈し,日本語の動詞表現の特徴を「日本人の空間認知を反映しているもの」として新たにとらえ直したい。 近世という時代における日本語研究において,日本語という言語により外界の現象をとらえる言語現象に,本居宣長・春庭が見出した「認知的意味」を今日の認知言語学の「空間認知」という観点から解釈し,再評価することで所期の研究目標を達成したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本居宣長記念館,天理大学附属天理図書館における現地調査のための国内旅費として,調査・研究旅費が必要である。また,いずれの調査についても,現地における資料複写費及び資料購入費等が必要である。
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