2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520569
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
彦坂 佳宣 立命館大学, 文学部, 教授 (00111237)
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Keywords | 言語地理学的研究 / 『方言文法全国地図』 / 方言文献 / 方言史 / 国語史 / 敬語 / 格助詞ノ・ガ |
Research Abstract |
前年度に引き続き、①格助詞ノとガの問題、②敬語のうち対称代名詞、③敬語のうち尊敬語の問題を考察して来た。アスペクトについても考え始めたた。 ①については、既に2012年に近世中期中国地方の方言資料『石見方言茶話』について、今日的な「ノ連体格・ガ主格」に近い模様があることを見た。続いて『方言文法全国地図』による全国的な問題を考えて来て、全体の傾向は分かっているが、主格にノを優先する九州の一部と東海・東山地方の一部につき、史的定位が難しく、論文化が遅れている。 ②も既に2012年に『方言文法全国地図』の「対称代名詞」の考察を終え、2013年3月に同じ問題を昭和27年国立国語研究所の調査結果による考察をし、一応の整理を終えた。続いて③について、「尊敬語補助動詞類の分布とその史的経緯」『論究日本文学』(立命館大学日本文学会、2014年4月、印刷中)を成した。そして、これら主たる敬語の代名詞と尊敬語を合わせた視点で伝播類型を考えた。 また、今までの『方言文法全国地図』の諸事項の考察に立ち、東西に挟まれた東海・東山地方の方言史的な特色について、「『あいだ』の日本語-関西と関東、二大方言の『あいだ』『日本語学』33-1(2014年1月)を成した。東西方言の対立的事項を主とし、その対立的分布を明確にし、かつ対立線は史的にも動くことを述べた。今まであまり指摘のない「行くダ」など動詞に直接する断定辞の表現のあることも述べた。 他に関連するものに次がある。「越境者たちの方言誌-その日本語史への寄与-」『論究日本文学』(立命館大学日本文学会、2013年5月)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題は、方言文法全国地図』と方言文献による言語地理学・文献学的研究を設定し、これを国語史さらには方言文献史的な点から考察するものである。考察対象は、○意志・推量表現、○条件表現、○順体助詞、○待遇表現の主要点、△格助詞ノ・ガ、×アスペクトなど、さらにこれらを総合した伝播類型の考察である。 本年度が最終年であり、達成度は、上の事項のうち○印のものはほぼ考察し、それぞれ幾つか論文としてきた。△はなお一部、歴史的な面に解けない点があり、論文化が遅れている。×は幾らか触れた論も成したが、全国的な点は手つかずである。 最終目標の、これら主要項目を見渡した伝播類型については、事項ごとの各論ではそれぞれこの問題に触れてきたが、その総合化の課題も残っている。今までの考察による概要は、国語史の古代語は日本の周辺地域まで伝播し、近代語は西高東低の分布、つまり西日本に厚く、九州北半から北陸・新潟、濃尾までの範囲に対し、東日本は江戸語の成立以後から標準語運動による関東周辺地域が中心の分布様態であり、国語史の反映が綺麗に見て取れる。ただし、事項により異なる面もあり、条件法の多くは西高東低ながらもかなり正円的な周圏的分布を示し、北陸・新潟への近畿的な進出が薄く、その理由が問われる。関東地方以北の定位、とくに太平洋側の伝播模様・時期にも不明な点が残っている。この伝播模様と社会的な要因-人口分布・地域交流の親疎・近世の藩政の区域などとの相関を考えることも課題である。 全体の達成度は八割程度であり、最終年度として残された時間をこれらの考察に充てるつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年は最終年度であり、残された考察対象事項と、全体を鳥瞰する伝播類型の諸相のまとめを行う。 残された課題は次のとおり。 印刷中の尊敬語論文は紙数の関係もあり、意を尽くせないので、これを詳細に敷衍する形で完成させる。また、九州、東海・東山地方に史的定位に問題を残す、ノ・ガの課題を解決させたい。アスペクトの問題はやや史的解明が難しいが、これも出来るだけ取り組みたい。そして研究項目全体を通した「伝播類型」の諸相を最終のまとめとして考察することが最終課題である。 伝播類型の点は、事項ごとに型に小差があり、その理由も問題となる。例えば、条件表現のうち「理由の言い方」は多くの事項と同じく西高東低的な分布を示し、近代語に属する近畿圏の新しい伝播が九州北半から北陸・新潟、濃尾までの型であるが、仮定条件は北陸・濃尾までの範囲しかなく、全体としてかなり正円的な周圏分布である。このような事項による小差につき、個々の表現に応じた型の違いの要因究明が課題となる。また、社会的な条件については、対称代名詞の考察で触れたが、他の事項についてもこれとの比較が必要であろう。特に言語の生態的な模様とその史的変遷をつかむ言語地理学的研究には、人口動態、近世期の藩政の動向、明治以降では地域間交流の模様などとの比較が必要となる。このような点にも留意して、最終課題である国語史・地方方言史の観点からの伝播類型をする予定である
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Research Products
(3 results)