2011 Fiscal Year Research-status Report
統語論と形態論のインターフェイスの研究 ― N‐A形容詞句
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23520601
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
有村 兼彬 甲南大学, 文学部, 教授 (70068146)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 勝忠 京都女子大学, 文学部, 教授 (70140796)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | N-A形容詞 / 統語論/形態論インターフェイス / 前位修飾 / 後位修飾 |
Research Abstract |
本研究は、N-A形容詞(N-A adjective:species specific)を対象にして統語論と形態論の相互関係を探ることを目標としている。この形容詞においては先行する名詞が形容詞の補部の関係を持っているように見える。これを名詞編入によって生じたと考えた場合、Nの特性は何か、その統語的、意味的、形態的特性は何かを明らかにする。この種の形容詞は生産性にややばらつきがあるが、もっと生産的な形式(-ing/-ed分詞の例(breathtaking, ocean-goingなど)に拡大し、NA形容詞の全体像を明らかにしたい。この形容詞の特徴として、例えば、これが前位修飾語として働く場合(species specific properties)、更に形容詞修飾語を付けた場合(well-known species specific properties)その形容詞は決して直後のspeciesを修飾せず、全体の名詞句の主要部(properties)を修飾する。このことは、形容詞に先行する名詞speciesがNPでなくN(あるいは、DP仮説を仮定すれば、DPレベルの投射を持たないN)としての資格しか持たないと解釈することができると同時に、それが形容詞specificに編入され、species specificが複合語になっていると見なすことができる。このことは、[AP [A specific] [DP [NP species]]]という一般的構造を仮定し、NP主要部NのAへの編入の有無によって2つの形式が導かれると考える。更に、この仮定ではspecies specificという形容詞主要部を形成する統語規則が存在することになるが、統語論が語の内部構造に関与し得るかどうか、仮に関与し得るとした場合の理論上の問題も検討したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である平成23年度の仕事は基礎研究を中心としたが、全体的に順調に進んでいる。有村は、Googleなどのコーパスからの用例の収集に努めた。その結果、N-A形容詞とその基底にあると考えられる前置詞を用いた後位修飾構造との関係は多種多様である(例えば、independent-of、specific-to, dependent-on、free-from: neutral-in)などが挙げられる。しかしこのように前置詞の本来の目的語のNと形容詞との意味関係はかなり多様であり、前置詞句補部を取り得る形容詞だからと言ってN-A形容詞になり得るわけでもなく、次はN-A形容詞を認めない: absolute-to, inevitable-to, devoid-of, fatal-to, paramount-to, unique-to, preferable-to, manifest-in/to, jealous-of, worthy-of, desirous-of。前置詞の目的語DPの語彙主要部であるNが元位置を離れてAと併合するとき、Aに対するどのような制約があるのか、あるいは、その制約がどのような性質を持ったものであるかこれから考えたいと思っている。 また、高橋は現在執筆中の『形態論』(共著:予定)派生・転換・複合語のメカニズムについて解説した。派生については派生語の接辞と基体の結合が下位範疇化素性に基づき形成され、接辞が基体に付加する際に、統語的・意味的・語源的・語種的制約を受けることを示し、転換については意味に基づく分析を語彙概念構造の考え方に従い、転換がどのように形成されるかを説明した。最後に、語彙化と語形成規則の関係は派生語の内部構造の二項枝分かれ構造の有無によるとした。N-A複合語の生成には意味構造を取り入れる可能性も指摘する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は2年目なので、昨年度の経験的事実の発掘とこれまでの研究のまとめを踏まえて、更に経験的にも理論的にも内容を深めることを目指す。 有村は、先述の通り、N-Aという単一語彙項目(一般的にはA0であるべきもの)の内部構造において統語的操作が関与するという仮定がもたらす言語理論上の問題点を考える。また、経験的問題点として、語彙形成規則に関わる予測の問題が残されている。例えば、theory internal ← internal to the theoryが可能であるが、health desirousは存在しない。internal to …とdesirous to …この違いは何に由来するか? また、高橋はN-A形容詞形成の意味の相違に注目する。そして、日本語と英語の違いについても考察する。日本語のN-A複合語と英語のN-A複合語との関係、更に編入と名詞の認可条件を巡って認可条件の相違について考える。日本語では「腹黒い」「物悲しい」対「*板黒い」「*音悲しい」の差はどうして生じるか?句・文表現では「板が黒い」「犬が苦しむ」「悲しい音」が可能になる。英語のbreathtaking, painstakingとの関係は見られるのかどうか。つまり、人間の換喩(metonymy)表現からの意味的拡張として捉えられるかどうかを検討する。日本語の複合形容詞は由本(1990: 354-356)が指摘していることであるが、Nが補部となるN-A複合語において形容詞がイ形容詞の場合はN-Aとならないがナ形容詞(形容動詞)の場合はN-Aとなることが指摘されている(資源に乏しい/*資源乏しい, 酒に強い/*酒強い, Cf. 仕事に熱心な/仕事熱心な, 関西に特有な/関西特有な)。この仮定をどの程度支持し得るかMiyagawa (1987)に照らして検討したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は主として研究に必要な書籍の購入、関係する分野の研究者を招いて行う講演会の謝礼に使うつもりである。
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Research Products
(1 results)