2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520603
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
大橋 浩 産業医科大学, 医学部, 准教授 (40169040)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 主観性 / 間主観性 / 主観化 / 間主観化 / 構文化 / 強意副詞 / 主体化 / 歴史語用論 |
Research Abstract |
平成24年度は文献を購入し、主観性(化)・間主観性(化)に関する先行研究を検討した。平行して、コーパスからの資料の収集と分析を行い、進行中であった論考と新たな論考を1,2として発表し、論文1および共編図書1所収の論文(「強意副詞big timeの発達」)と印刷中の論文(「『だいたい』における多義の関係」『山崎和夫教授退官記念論集(仮題)』所収)を執筆した。また、英語の接頭辞の意味を認知的手法で分析した研究書の書評である論文2と、意味論の入門書の翻訳である図書2を執筆した。 具体的には、all you want/likeの共時的特徴に基づき、名詞>曖昧な例>副詞という通時的プロセスを経たとするOhashi(2006)の主張の妥当性を、通時的コーパスからの資料で検証した。さらに資料によってまず You're welcome to use it all you want.のような許可を表す文で使われ、後にYou can inspect it all you want, but it looks perfect to me.のような非難や譲歩を表す文で使われるようになり、近年では後者の用法が中心的であることを明らかにした。さらにこの意味変化を(間)主観性の観点から考察し、Traugottの概念規定に従うと、この句は主観化は経ているが、間主観化しているとはいえないことを指摘した。 これらの論考を通して、通時的意味変化とその動機づけを説明する上ではTraugottによる(間)主観化の概念規定が有効であるが、反面、完全に「意味化」していなければ(間)主観化と認めないとするTraugottの規定では、間主観化とみなせる現象が極めて限られるため、その規定には考察の余地があることが明らかになった、認知文法の有効性を考慮するとLangackerによる概念規定との融合を探る価値があると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の「研究目的」は、(1)主観化と間主観化が生じる通時的順序についてコーパスを資料に綿密な調査を行い、(2)主観化が間主観化に先行するというTraugott等の主張を検証し、(3)調査によって得られた結果をもたらす要因や動機について認知論的観点から考察し、(4)意味変化の基盤を、間主観性が喚起されやすい会話におく理論と、間主観化が主観化に先行するというデータとの整合性を模索する、という4点である。 (1)~(3)については「研究実績の概要」で述べたように、すでに口頭発表や論文で行った事例研究、および、並行して行った先行研究の検討を通して達成された。(1)と(2)については、事例研究と先行研究中で扱われた現象では、間主観化が生じている場合には、それに先だって主観化が生じていることが検証された。(3)についても、表出効果を得るための語用論的推論を意味変化の推進力と考えるTraugottの立場の有効性が事例研究によって検証された。 なお、口頭発表に対するフィードバックとして、意味変化において、非標準的な新しい言い回しを意識的に使用する話し手の役割の重要性が認識されるようになり、今後の研究における新たな課題となった。また、all you want句のように、後続する文(要素)と相関して(譲歩のような)慣用化した用法を持つ、非連続的要素の意味変化を「構文化」という視点から捉える可能性が生まれ、やはり、今後の研究の新たな視点となった。 反面、事例研究を通してTraugott流の(間)主観化の規定の問題点も浮き彫りになった。それは、間主観化を狭く定義すると、間主観的とみなすことのできる現象が極めて限定され、この概念の有効性に疑問が生じることである。この問題をどう扱うかということは新たに24年度以降の課題となる。 (4)に関しては当初の計画通り24年度以降の課題として取り組む。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」であげた「研究目的」のうち、主に(2)~(4)に重点を置いて研究を推進する。 (2)については引き続き、文献を読み研究会や学会に出席して新たな知見の獲得に努める。あわせて、(間)主観化の事例の収集とその実証的な分析、およびそれらのデータと理論との整合性に関する考察を行う。また、発表2に基づいた論文の執筆を行う。 (3)、(4)については、意味変化を分析する理論としてはTraugottによる(間)主観性(化)の概念規定や表出効果を基盤に置く説明の有効性が明らかになったが、説明対象となる現象が非常に限定されるという点や、幼児の認知能力発達における間主観性の発達との整合性などの点に問題がある。前者についてはLangackerによる「主体性(化)」という概念との類似点と相違点を洗い直し、ふたつの概念を融合する可能性を探る。後者に関しては、まず文献や学会参加を通して認知能力の発達における(間)主観性についての事実や分析について検討することから始める。ある程度論考がまとまった段階で研究会や学会で口頭発表を行いフィードバックを得る。 最終的には、通時的な言語変化に関する事実と認知能力の発達に関する事実の両方を適切に説明できる主観性、間主観性、主観化、間主観化の概念規定とそれを用いた理論の構築を目指す。また、25年度に予定している国際学会での成果発表の準備を進める。 また、本研究の基礎となる研究として、意味論の入門書の翻訳書を分担執筆したものが出版される(現在校正が進行中)。また、本研究から派生した研究活動として、認知言語学の英語教育への応用に関して国際学会のシンポジアムで口頭発表を行い、また、認知言語学の入門書(『認知言語学:基礎から最前線へ(仮題)』)の分担執筆を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
設備備品費:前年度同様に新たに発表される知見を得るために図書を購入する。なお、大規模コーパスに関しては、共時的コーパス(Corpus of Contemporary American English, British National Corpusなど)も、通時的コーパス(Corpus of Historical American English, TIME Magazine Corpus of American English, Google Books (American English) Corpusなど)も無料で使用可能なものがインターネット経由で提供されているため、これらを利用する。 旅費:本研究に関連した研究発表として、大学英語教育学会(JACET)主催の国際学会、JACET CONVENTION 2012― The 51st International Convention ― (2012年8月31日(金) ― 9月2日(日)、愛知県立大学)において、Applied Cognitive Liguistics: From Theoretical Books to Language Classroomsというテーマのシンポジアムの講師として口頭発表を行う。また、新たな事実や知見を求めて日本認知言語学会などの学会や研究会に出席する。 消耗品・その他:必要に応じて文房具、印刷費等に使用する。
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Research Products
(6 results)