2012 Fiscal Year Research-status Report
短期型留学プログラムにおける修了研究の教育的意義と有効性
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23520631
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 眞理子 京都大学, 国際交流推進機構, 教授 (30230080)
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Keywords | 日研生 / 修了研究 / 日本語技能習得 / 研究能力 / カリキュラム / アカデミック・スキル / 短期型プログラム / 国費留学制度 |
Research Abstract |
本年度は以下の三つの方法で研究を進めた。 1)全国アンケート調査:7月~10月までの期間中に対象学生である日研生の在籍のあった47大学を対象に全国アンケート調査を実施した。130名の回答者から得られたデータを分析し、その結果の一部を学会にて発表した。修了研究の遂行過程で何が困難となるのか、現在の教育システムのどの要素がその克服過程において有効に機能しているのか、修了研究遂行による日本語技能習得効果及び研究能力獲得効果を中心に分析を進めた。 2)修了研究による日本語習得効果を測定する合同日本語テストの実施及び研究会の開催:アンケート調査では把握しきれない日本語の語彙、文体、アカデミック・スキルの習得効果を可能な限り具体的に測定する目的で、東京外国語大学、千葉大学及び金沢大学の協力を得て、研究グループを立ち上げ、京都大学を含む4大学に在籍している73名の日研生を対象に合同日本語テストを実施した。技能測定を目的としたこのテストを同一対象者に対して段階別に3回行うものとし、開始時及び1学期終了時という2段階においてテストを実施した。その結果を採点し、データベース化を図った。 3) 聞き取り調査:本年度は4校を訪問し、担当教員5名及び修了時日研生5名を対象に聞き取り調査を行った。本調査から得られたデータを上述の日本語技能習得効果並びに研究能力獲得効果の分析に生かした。 合同テストを通して日研生の実際の技能習得過程の詳細な分析に着手したという点において前進できたが、技能習得と修了研究との具体的な因果関係の解明は容易ではないということが課題として残る。修了研究遂行過程で日研生が困難と感じる点やそれらを克服する上で有効な方法などは実際の日研生教育に応用可能なデータであり、次年度においてより詳細な分析を試みたい。その上で、技能測定テスト結果と照らし合わせながら、総合的分析を進めていきたいと思う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日研生受け入れ校の協力の下、全国の修了時日研生に対するアンケート調査を実施し、その分析を通して、教育方法としての修了研究の有効性について検討した。前年度は教育制度の観点から分析を実施したが、本年度は教育内容そのものに主眼においた分析の形で研究を進めることができた。得られたデータの更なる詳細な分析を進めながら、最終年度の総合的分析の際に生かしていきたい。 本年度の研究において重要な位置を占めたもう一つの部分として、修了研究の日本語技能習得効果に対する分析が挙げられる。アンケート調査及び聞き取り調査に基づいた分析を実施し、その結果を学会にて発表した。しかし、学生の自己申告に基づいた上述の分析では詳細な実態の解明が困難であるため、当初の予定を一部変更し、4大学の合同プロジェクトチームを立ち上げた。それぞれの大学の日研生を対象に教育課程の3段階に亘って、合同日本語テストを実施し、詳細な分析に必要なデータ収集を図った。チームのメンバーで、3回研究会を実施し、修了研究を通した日本語技能習得について語彙・文体・技能(アカデミック・リーディング及びライティング)の三レベル別に、詳細な分析計画を作成した。学生の教育課程の進行に沿ったテストの最終段階は次年度の7月に実施予定であるが、開始時及び1学期終了時のテスト結果を集計し、比較できる形にまとめた。 研究の方向性を一部変更したこともあり、全体計画の一部となっている、<修了研究を通した日本というフィールドの生かし方>及び<原籍大学の教育との一貫性>については、まだ分析を開始していない。日本語技能習得効果の探究に重点を置きながらも、最終年度の総合分析の際にこれらの残されたテーマについても取り挙げていきたいと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
4大学で行った1学期終了時テスト結果のデータベース化を行った上で、開始時テスト結果との一次的比較分析を行い、全体的傾向性を把握する。修了時テストを作成し、2013年9月に修了する日研生を対象に実施し、結果をデータベース化した上で、総合的分析を開始する。 上述した研究グループの分担作業の形で、合同日本語テスト結果の分析を進める。同分析を通して、とりわけ以下の点を中心に追及しつつ、修了研究を通した日本語運用力獲得について研究を進めていきたいと思う。1)伸び率(全体的傾向性、伸びが見られる項目、課題のある項目)、2)語彙・表現の習得度合いとその問題点(一般語彙、学術語彙の習得度合、文末表現の使用傾向、コロケーション使用の習得度合いと誤用、ライティングストラテジーと語彙使用の相関性など)、3)文体(語彙・文法的側面に見られる習得度合いと誤用分析)、4)リーディングスキル習得(課題の傾向性)、5)ライティングスキル習得(接続詞の使用と論の展開方法、解説型文章から見た考察能力の習得と誤用分析など)。上述の分析結果を論文としてまとめ上げ、最終報告書に掲載したいと思う。 既に実施した修了時日研生に対する全国アンケート調査及び日研生・担当教員に対する聞き取り調査のデータをより詳細に分析・まとめながら、修了研究を通した日本というフィールドへの取り組み方及び原籍大学教育との関わり方について考察する。 研究の最終年度に当たるため、上述の分析結果を日本語教育学会研究集会などで口頭発表し、最終報告書としてまとめ上げ、刊行したいと考えている。 修了研究を通した日本語運用力の獲得の特徴抽出のためには、他グループの学習者との比較が必要である。このような残された課題を追及しつつ、日本語教育に応用可能な形にまとめていくためには、より詳細のテストの実施・分析が必要であり、次の課題研究の形で継続していきたいと思う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
修了研究を通した日研生の日本語技能習得効果を検証する方法として本研究では、段階別に行う合同日本語テストを用いる。テスト結果の入力・データベース化・PDF化及び電子データ化はアルバイト学生に依頼して進める予定である。更に、修了時テスト結果の採点は2名の日本語非常勤講師に依頼する。更に、最終報告書の校正補助を大学院生に依頼する。これらの作業を進める際に研究費を謝金として使用する。 修了時テストを7月末に行う予定である。その作成を研究代表者が行い、協力してもらう3大学へ送付する。テストの送付及びその回収は郵送の形で行う予定であり、郵送料が必要となる。 次年度の予定の大部分を占める日本語運力獲得研究は他大学研究協力者と合同で行う予定であり、次年度中に3回程度研究会を開くつもりである。また、年度末に日本語教育研究集会にて合同の成果発表を行いたいと考えている。上記の遂行に当たり、研究協力者の旅費及び宿泊費が必要となるので、研究費から支出したい。 次年度は本研究課題の最終年度に当たるので、研究成果を最終報告書としてまとめ上げ、刊行することを計画している。その印刷費用及び関係機関への送付費用が必要であり、次年度研究費使用の大きな部分を占める形となる。なお、日本語テスト分析を通した修了研究の技能習得効果は6名の研究者の協力を得て実施する。研究協力者が執筆する論文も最終報告書に掲載する予定であり、その抜き刷り印刷、各協力者への送付のためにも研究費が必要となる。 年度末に学内で成果報告会を実施する予定であり、そのパンフレット作りや会議費としても研究費が必要となる。 以上記したように、謝金、旅費・宿泊費、印刷費、通信費を中心に最終年度の研究費を使用できればと願っている次第である。
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