2011 Fiscal Year Research-status Report
早期外国語教育のインプット量が音声習得に与える長期的・短期的影響
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23520712
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
原田 哲男 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (60208676)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 第二言語習得 / 早期外国語教育 / 学習開始年齢 / インプット量 / 音素識別 / ノイズ / 音声習得 |
Research Abstract |
公立小学校での外国語(英語)活動を踏まえて、「児童の音声に対する柔軟な適応力」とは何かを、臨界期説では未だ明らかにされていない問題を解明する。すなわち、幼児期・児童期の限られたインプットが、音声習得にどのような長期的な影響を及ぼすかを、母音・子音・プロソディーの生成・知覚・聴取の各実験により探る。今年度は、先行研究の問題点を探り、リサーチ・デザインを立て、予備実験による妥当性・信頼性の確認を行った。日本のような外国語環境に於ける限られたインプットでも早期英語教育は聞取りに有利であるという先行研究(Larson-Hall 2008)がある一方、そのような限られたインプットでは、早期英語学習が聞取りに有利になることはないとしながらも、ノイズを伴った状況では早期英語学習者のほうがより正確な聞取りができると報告されている(Lin et al. 2004)。一般的に、ノイズや他の人の話し声の中では、外国語話者の音素識別能力は、母語話者に比べて、著しく劣ることが指摘されている。そこで、本研究では、理想的な状況と悪条件下での英語音素識別能力に関して、3歳から8歳の間に、週2、3時間の英語学習を開始した大学生と、中学生から英語学習を開始した大学生とを比較した。日本人英語学習者にとって識別が困難とされている緊張母音・弛緩母音(beat, bitの母音)と接近音( [l, r, w])を選び、語頭に各音素を含む単音節の3語を使い、それぞれのペアーの語をAAB, ABA等の順で聞かせ、その中から違った音素を含む単語を一つ選択させた。まだパイロットの段階であるが、どちらのグループも理想的な状況での音素識別能力には差がないが、悪条件下では早期学習者のほうが有利な傾向が見られた。この結果から、限られたインプットでも早期学習者のほうが、ノイズに影響されにくい音声範疇を確立していると言えそうである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前期は学科主任の任務と震災の影響があり、期待していたエフォート率を達成することが少し困難だったが、後期からほぼ予定通りに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は三つの観点から研究を進める。1)今年度のテーマであった早期外国語教育での限られたインプット量(週2、3時間程度)が音声習得にどのように影響するのかという検証に加え、2)次年度はイマージョン教育に於けるインプット量の音声習得への短期的影響、3)さらにインプット量の減少が幼児期・児童期に習得した音声能力に与える長期的影響を探る。1)では、研究代表者の大学で引き続き、幼児期や児童期に週数時間の英語を学習していた学生からデーターを取り、インプット量が限られた早期英語学習が音声習得にどんな影響を与えているかを検証する。2)では、日本国内の英語イマージョン教育と海外の日本語イマージョン教育の在学生から、音声の知覚と生成のデーターを収集し、イマージョン教育が音声習得にどのような短期的影響を与えているかを検討する。3)では、小学校の時はイマージョン教育を、中学校と高校では伝統的な外国語教育を受けた大学生から、知覚と生成のデーターを取り、一般の学生と比べ、小学校の時に受けたイマージョン教育がその後の音声能力にどんな影響があるかを探る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は震災の影響で、授業開始が1ヶ月遅れたため、夏期休業期間前に実験参加者(学生)にアクセスして本格的なデーター収集ができず、参加者とリサーチ・アシスタントに支払う予定の人件費、謝礼等を次年度に繰り越さざるを得なくなった。次年度は、日本人英語学習者のみならず、海外の日本語学習者からも本格的なデーター収集・分析を行う予定である。以下は、具体的な研究費の使用計画である。音声刺激加工用のソフトウェア、ポータブルレコーダー、マイク等(物品費)研究計画、準備、事前打合せ(旅費、人件費):1)リサーチ・アシスタントを雇用し、引き続き予備実験を行い、リサーチの妥当性・信頼性を再検証する。2)リサーチ・アシスタントに知覚実験で使用する刺激の作成を依頼する。3)海外の日本語イマージョン・プログラムを訪問し、次年度のデーター収集の可能性を、学校、地区の教育委員会と具体的に話し合う。4)次年度の実験依頼のために国内の英語イマージョン・プログラムを訪問する。データー収集(旅費、人件費、謝金):1)研究代表者の大学で早期英語学習を経験した学生と経験のない学生から引き続きデーター収集する。2)リサーチ・アシスタントを国内の小学校に派遣して、データー収集する。3)海外の日本語イマージョン・プログラムに在籍中の児童と卒業生からデーター収集を行う。4)リサーチ・アシスタントの協力を得て、国内の英語イマージョン・プログラムに在籍中の小学生から生成と知覚の両実験データーを収集する。5)母語話者による聴取実験を行い、日英語の生成データーの外国語訛りを判定する。データー分析・解釈(人件費):1)リサーチ・アシスタントを雇用し、英語と日本語の生成・知覚の全てのデーター分析・解釈を行う。研究成果発表(旅費):1)途中経過を国際学会で発表するため、論文の書き下ろし作業を開始する。2)海外の学会で研究発表を行う。
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Research Products
(3 results)