2011 Fiscal Year Research-status Report
古代・中世の朝鮮半島における貨幣流通の様相と東アジア世界
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23520786
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
三上 喜孝 山形大学, 人文学部, 准教授 (10331290)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 朝鮮三国時代 / 高麗 / 貨幣流通 / 東アジア世界 |
Research Abstract |
本研究の目的は、古代・中世の朝鮮半島における貨幣流通の実態を、文献史料や考古資料などの調査・検討を通じて明らかにすることを目的としている。とりわけ本研究で特色的な点は、「モノ」としての貨幣に注目する、という点であった。 初年度である平成23年度においては、韓国における文献史料や研究文献の収集や、考古資料の調査など、基礎資料の収集につとめ、韓国・国立中央博物館の所蔵資料を中心に、3度にわたって、韓国での資料調査を進め、大きな成果をあげることができた。 とりわけ韓国・国立中央博物館においては、学芸研究士の方々から、韓国における研究の現状についての情報や、関連する研究文献についてのご教示を仰いだり、また、博物館所蔵の資料についての実見調査について便宜を図っていただいたりした。この過程で、本研究がめざすところの、古代・中世における朝鮮半島の貨幣史研究の現状について、理解を深めることができた。さらに、銭貨にかかわる金石文資料(百済・武寧王陵の買地券、高麗時代の買地券)の実見調査を通じて、朝鮮半島の貨幣が、古代・中世を通じて、中国の貨幣の呪術的な使用法の影響を直接的に受けていたことを明らかにできた。 これまでの研究では、文献史学の分野からは、文献史料にみえる貨幣発行といった制度史的な検討、また、考古学の分野からは、特定の関心(たとえば、高麗時代の墓から出土する銭貨)による資料集成などがおこなわれてきたが、これらを総体としてとらえようとする研究は、まだ進んでいないということが明らかになった。その点においても、本研究がめざすところは、十分に意義のあることであり、今後もこの方向性で進めていくことが重要であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、朝鮮半島の古代・中世における貨幣流通の実態を文献史料、考古資料の両面から総体としてとらえることであり、初年度は、そのための基礎資料の収集というものであったが、こうした当初の目的は、おおむね順調に進展しているといえる。 初年度は、ソウルの国立中央博物館における調査が主となった。国立中央博物館には、韓国内の代表的な前近代貨幣関連資料を数多く所蔵しており、3度にわたる出張を通じて、それらの実見調査をおこなうことができたことは、とても大きな成果であった。 また、国立中央博物館の学芸研究士の方々との交流を通じて、実物調査に関して便宜を図っていただいたことはもちろん、韓国内における当該研究の現況についての情報や、関連する文献史料や研究文献の存在などをご教示いただき、これにより、韓国内の研究の現況について把握することができた。さらに、こうした方々との人脈を築いたことにより、次年度以降に予定している、韓国内各地での資料調査においても、大きな展開が開けることとなった。 こうした意味においても、初年度の研究は、おおむね順調に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度における研究を通じて、当初の研究目的ではあまり想定していなかった、新たな課題が浮上した。 一つは、中国銭の流入の問題を、積極的に取り上げるべきである、という点である。当初の目的では、とくに高麗時代に朝鮮半島で独自に発行された貨幣の使用実態について明らかにすることを重点に置いていたが、実際には高麗時代に、当該期の中国銭が数多く流入しており、この中国銭に関する理解なくしては、高麗時代における銭貨使用の様相を全体として明らかにすることができないと思われる。 またこれに関連して、二つめの課題として、高麗時代の遺跡から出土する中国銭の多くが、墓の副葬品として用いられたことが確認されることから、銭貨の呪術的な使用という観点を、銭貨流通という視点に加えてもたなければならない、ということである。もっとも、これらは、同時代の日本列島でも同じ現象が起こっており、つまりは、当該期の日本列島における貨幣使用の様相と比較する視点がますます重要になってくるということである。 以上の2点は、初年度の調査・研究を通じて次第に明らかになっていた点であるが、これにより、研究を遂行する上でその手法を大きく変更するような必要性は、とくに存在しない。本研究では一貫して、「モノ」に着目して貨幣使用の実態に迫る、ということを目的としており、本研究がめざした手法を貫徹するかぎりにおいて、これらの新たな課題に対しても、十分に対応することができると考えるからである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.韓国内における資料調査・遺跡踏査を複数回にわたり行う。 前年度にひきつづき、韓国内の諸機関において、資料調査を実施する。貨幣資料の調査は、主要なものだけでも複数年度にわたって調査をしなければ、その全貌をつかむことはできない。また、資料調査の過程で、関連する資料の存在も判明するはずである。こうしたことから、平成24年度以降も、ひきつづき、関係諸機関において資料調査を継続する。また、これにともなう遺跡踏査も、ひきつづき実施する。2.日本国内における遺跡出土の高麗銭の資料収集ならびに調査を行う。 日本でも、ごく稀な例だが、中世のいわゆる大量埋蔵銭(その多くは宋銭)の中に、高麗で鋳造された、いわゆる高麗銭が混じっている例がある。これまで、その出土例が稀であるがゆえに、高麗銭についてはあまり意識して検討されることがなかった。本研究では、日本出土の高麗銭について資料収集を行い、その出土状況や遺跡の時期などの検討を通じて、高麗銭の伝来ルートについての考察を行う。収集方法については、以前、出土銭貨研究会が発行した学会誌『出土銭貨』などで、高麗銭の出土事例が紹介されているものがあり、それらを参考に、出土事例の収集にあたり、必要に応じて実際に資料調査を行う。そもそも、宋銭に代表される中国銭を輸入して自国の貨幣として使用していた日本の中世社会にあって、高麗銭は、どのようなルートで流入したのか、また、どのような位置を占めていたのか。これらを考察することは、これまで中国と日本のみの関係でしか見てこなかった、東アジアの流通経済史研究に、あらたな視点を提示するものと考える。
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Research Products
(3 results)