2011 Fiscal Year Research-status Report
アルメニア「祖国帰還」運動に見る民族アイデンティティの諸相
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23520790
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉村 貴之 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (40401434)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / アルメニア / ナショナリズム / 共産主義 / ディアスポラ / ソ連 / 国際関係 / 冷戦 |
Research Abstract |
第二次大戦後にソヴィエト・アルメニア政府が行った在外同胞に「祖国」帰還を促す宣伝活動が、在外アルメニア人コミュニティのメディアでどのように扱われていたかを、レバノンならびにフランスで発行された現地アルメニア系定期刊行物を用いて分析した。 そもそも、ロシア帝国解体時に独立したアルメニア「第一共和国」(1918~1920)の政権与党ダシュナク党(アルメニア革命連盟)は、ソヴィエト政権成立後に亡命し、在外同胞のコミュニティ内で徐々に勢力を拡大した。一方、オスマン帝国下のアルメニア人エリート層を中心とした民主自由党も、第一次大戦中に発生した虐殺を逃れて国外に亡命し、社会主義政党フンチャク(鐘)党と連携した。そして、1920年代の末には、ソヴィエト・アルメニアへの「祖国」救援運動などを通して在外知識層は、親ソ派の旧オスマン・アルメニア人エリート団体、特に民主自由党とアルメニア慈善協会の支配する陣営と反ソ派のダシュナク党の支配する陣営に分裂した。 そのため、当初、戦後の「祖国」帰還運動の再開後も、親ソ諸政党はその機関誌でこの運動を積極的に宣伝し、他方、ダシュナク党はその機関紙でこれを批判するような論陣を張っているだろうと予想していたが、必ずしもそのような明確な違いは見られなかった。むしろ、ダシュナク党がこの運動に批判的な態度を取り始めるのは、しばらく経った1947年頃からであることが明らかとなった。第二次大戦時には、ダシュナク党は政権奪還の好機としてソヴィエト・アルメニアを支配する共産党を批判するキャンペーンを繰り広げていたことは既知の事実であるため、この時期のダシュナク党のソヴィエトに対する曖昧な態度が何を意味するのか、さらに検討に値する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画にはなかったが、本課題と関連するテーマ、すなわち、独立後のアルメニアの政治における「本国帰還」者やその子孫の影響についての課題遂行を優先する必要があった。結果として、元来は本課題の在外調査に充てるべき期間を短縮せざるを得なかったために、今年度に予定していたアルメニアでの史料収集は来年度に行うことにした。
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Strategy for Future Research Activity |
「祖国」帰還運動によってソヴィエト・アルメニアに移住した在外同胞の処遇については、研究論考においても、冷戦期のイデオロギー対立に起因する極端な評価の違いが見られ、親ソ派反ソ派それぞれにとって都合の良い事実ばかりが強調される嫌いがあった。今後の研究では、アルメニア共和国の国立歴史社会文書館でソヴィエト・アルメニア移住した在外同胞の処遇に関する行政文書を収集し、その実態を描く。 さらに、ソヴィエト政権の在外同胞社会への働きかけに関しては、これまで在外政党を中心に検討したが、もう一つの重要な社会団体である教会については手を付けて来なかった。次年度より在外教会対策についての史料も収集を開始する。 時間的に余裕があれば、ソヴィエト・アルメニアの機関紙が、この運動や帰還者についてどのように報じているかについての記事を、アルメニア国民図書館で収集する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度予定していた史料収集のためのアルメニア渡航が次年度に延期となったため、その経費として今年度の研究費の残金と次年度の研究費の半分が充当される予定である。また、本研究費を利用して本研究課題に関連する国内のシンポジウムに出席し、関連書籍の購入も行う。
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Research Products
(4 results)