2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520795
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
中西 直樹 龍谷大学, 文学部, 准教授 (20412687)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 仏教史 / 殖民地 / 異文化交流 / 朝鮮:台湾:中国 |
Research Abstract |
本研究は,戦前期に仏教教団各派が実施してきた海外開教事業の実態を解明しようとするものである。前回採択(2007年度から2009年度)の際は,アメリカ方面の事業を対象とし,その成果を『仏教海外開教資料集成』ハワイ編・北米編・南米編(全15巻)として刊行した。今回採択(2011年度から2013年度)では,アジア方面の事業を対象に『日本仏教・アジア布教史資料集成』と題し,朝鮮編・台湾編・中国編を刊行する。 アジア方面とアメリカ方面の布教事業は,同じ様に在留邦人を主たる布教対象としてきたが,その直面した状況により,仏教思想の普遍性に対する自覚,現地社会との対話・同化への指向性の差異を生み,大きくあり方を相違させてきた。アメリカ方面の布教では,厳しい反日状況にさらされながらも,仏教思想が多元性・普遍性をそなえ,アメリカ社会のあり方と矛盾・対立するものでないことをアピールするとともに,布教方法や信者組織等を現地社会に順応したものへと改編する努力が重ねられてきた。これに対し,アジア布教は,現地の宣撫工作のために日本政府や軍部によって利用動員され,これに率先して協力してきた側面が強いものであった。現地の精神文化やそこでの仏教の立場を尊重することよりも,それらを指導し支配する役割を強く意識し,現地を日本化していく植民地政策の一端を担ってきたのである。 この結果,アメリカ方面では,現在に至るまで「仏教のアメリカ化」に向けた事業が継続されてきたのに対し,アジア布教は日本敗戦後に途絶して,戦後も再開の気運が生じていない。また日本仏教各宗派は,戦前のアジア布教の事実をいわば封印し,そのあり方を積極的に検証する作業をしてこなかった。このため,関係資料の散佚にも著しいものがある。 本研究では,日本仏教のアジア布教史の実態把握とその検証に資するような刊行物を,可能な限り収集・編集して復刻する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
調査・研究の進捗が当初の予定よりも遅れたのは,不測の事態が重なったことによるものであった。第一には,2011年度に小職の勤務校が変更となったことを挙げることができる。2010年度の申請の時点では正式に転職が決定していなかった。ところが,申請後に転職が正式決定し,このため,当初想定していなかった転居作業と新しい職場での諸業務に忙殺されることとなった。特に2011年度の前期は,十分に調査・研究作業に従事することができなかった。また,資料整理のアルバイトの雇用を予定していたが,新たしい職場ですぐに適当な人物を見つけることができなかった。第二に研究成果の刊行を予定していた出版社の担当者が退職したことも少なからず影響した。その後,新たに刊行する出版社を検討して内定することができたものの,この間に編集作業が多少滞ることとなった。第三に,研究費の交付が遅れたことも予想外の出来事であった。このことにより,資料調査のための出張に行くことができないケースが生じ,またやっと見つけたアルバイトの雇用も途中で断念するなどの影響が出て資料収集・整理の作業が遅滞した。最後には,資料収集を進めていく段階で,予想外に資料があることが判明したことである。特に朝鮮総督府の刊行物に幾種類もの系統があり,その収集・整理作業が予想外に手間取った。 以上のような想定外の出来事があったものの,2011年度の後半には順調に調査・研究作業は進んだ。これにより,2012年度後半から2013年度前半にかけて,『日本仏教・アジア布教史資料集成』朝鮮編(全7巻)を刊行する見込みをつけることがきた。 現在,朝鮮編の資料収集・編集作業がほぼ終了し,『日本仏教・アジア布教史資料集成』朝鮮編の解題原稿の執筆中である。しかし一方で,台湾編の資料収集は,ほぼ手つかずの状態である。全体的に,当初の予定よりも半年ほど作業が遅れている状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度には,まず『日本仏教・アジア布教史資料集成』朝鮮編(全7巻)の発刊に向けての最終作業を進めていく予定である。現在執筆中の朝鮮編の解題原稿を脱稿し,出版社との最終的な打合せを行い,掲載資料の最終チェックと解題の校正等を行いたい。これにより,2012年度の後半から朝鮮編を発刊できる見込みである。 次に台湾編の刊行に向けた資料収集作業を行う。収集にあたっては,国立国家図書館や各大学の附属図書館などの機関をはじめ,仏教各宗派機関,元開教使(師)とその遺族などへも直接赴き資料調査を実施する。同時に,古書店に流通している資料も購入していきたい。また台湾における仏教各宗派の動向を把握するため,仏教関係の新聞・雑誌の記事も収集する。『明教新誌』『教学報知』『中外日報』『京都新報』『教海一瀾』『浄土教報』『真宗』『宗報』『日宗新報』『六大新報』などの関係記事を採取し,アルバイトを雇用して,関係資料のデータベースを構築していく予定である。 2013年度には,まず前記の作業を経て,『日本仏教・アジア布教史資料集成』台湾編に掲載する資料を選定・確定し,その解題を執筆する予定である。執筆後に台湾編の発刊に向けての最終作業を進めていきたい。出版社との最終的な打合せを行い,掲載資料の最終チェックと改題の校正等を行い,できれば2013年度後半から台湾編を刊行したいと考えている。 上記の台湾編の編集作業と平行して,中国編の刊行に向けた資料収集作業も行いたい。資料収集にあたっては,上記の台湾編と同様の資料調査を実施する。仏教関係の新聞・雑誌の記事を収集・整理したデータベース化に関しても,台湾編と同様の作業を行い,可能であれば,中国編掲載資料の選定と解題執筆に着手したい考えである。 以上に加えて,可能であれば北方方面・南洋方面についても,その資料収集を併せて進めていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
資料調査のための旅費として,東京・九州方面の大学付属図書館・研究機関への出張を数回を見込んでいる。この出張により,『日本仏教・アジア布教史資料集成』台湾編・中国編への掲載資料・参考資料を収集していくつもりである。その他,元開教使(師)とその遺族への調査も想定しているが,出張先や時期が現段階では確定できていない。朝鮮・台湾・中国の現地調査も必要となる可能性があるが,現時点では確定できていない。調査を進める上で、資料調査の出張先も追加・変更となる可能性があるが,予算範囲内で柔軟に対応したい考えである。 消耗品は,プリンタートナー等の機器消耗品,若干の文具,消耗機器,他大学等の付属図書館・研究機関の資料複写に関わる費用を中心とするものである。多量の複写が生ずることになると考えられるため、その分を見越して計上している。また,古書店に流通している関係資料・参考資料も購入する必要が生ずると考えられる。しかし,古書への流通は予測のできないものであり,このため,必要に応じて柔軟に支出対応したいと考えている。 資料整理に関しては,その補助としてアルバイトに対する謝礼費用を計上している。特に資料集の解題執筆の基礎資料として,『明教新誌』『教学報知』『中外日報』『京都新報』『教海一瀾』『浄土教報』『真宗』『宗報』『日宗新報』『六大新報』などの仏教系新聞雑誌から関係記事を探索してカード化・データベース化する必要があり,その作業には,膨大な時間と手間を要する。このためのアルバイト謝礼として,年間に25万円程度を見込んでいる。 その他に関しては,主に国内外の機関・個人との資料収集に関する連絡調整、貸与資料等の返送等に関わる郵送費などである。 現代段階での計画は,概ね以上の通りであるが,調査研究の進捗によって使途の費目等の変更が予想されるため,予算の範囲内で柔軟に対応していきたい考えである。
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Research Products
(1 results)