2011 Fiscal Year Research-status Report
兵農分離制下における身分的中間層に関する基礎的研究
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23520802
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉田 ゆり子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (50196888)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 侍 / 兵農分離 / 家 / 身分 / 牢人 / 郷士 / 帯刀人 / 系図 |
Research Abstract |
2011年度は、山城国革嶋家と信濃国熊谷家を中心に史料収集と分析・考察を行なう計画であったが、飯田市歴史研究所と史料所蔵者の協力を得ることができ、信濃国に関する研究を重点的に行なった。その結果得られた成果は、次の4点である。1、宮下家文書に所蔵される『熊谷家伝記』以外の書簡や系図などの史料を調査・収集し、宮下家の所在した和合村に関する分析を行い、その一部を一般向け書物(『書き残された和合史)の解説原稿として公表した。『熊谷家伝記』の記述の不正確な部分について、何を典拠としてそうした誤りが生じたのかを考証した。具体的には、天文23年の武田信玄による下伊那侵攻を弘治2年とする記述が『熊谷家伝記』をはじめ、下伊那地域で近世に編纂された歴史書に多く見られることから、その誤りがどのようにして形成されたのかを考察した。成果は、2012年度刊行予定(『飯田・上飯田の歴史』)に掲載される予定である。宮下本『熊谷家伝記』の翻刻作業を進めるために、飯田市歴史研究所と打ち合わせを行い、2012年度からとりかかる予定である。2、桃井城城主桃井弾正宗綱の子孫と伝えられ、部奈村を開発したという信濃国部奈村部奈家に伝わる文書群の悉皆調査を完了し、委託撮影にて史料収集を行った。調査の結果、部奈家は幕末期に村に用水を引く事業を行なった功績により、白河藩から苗字・帯刀を許されるものの、必ずしも近世を通じて「侍」意識を有している家とはいえないことが判明し、逆に本研究の対象とする家々との意識の差を考察するために有益な素材となると考えられる。部奈家文書については、飯田市歴史研究所から報告書を刊行した。3、信濃国下伊那郡浪合村千葉家文書のうちで目録の未作成であった状物について情報を整備した。4、革嶋家文書について、これまで収集していた史料をもとに、「侍」となった革嶋一族の動静についての検討を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、山城国革嶋家文書の収集も行う予定であったが、信濃国関連の史料分析に力を割いたため、革嶋家文書の収集と分析が遅れている。また、部奈家文書の整理・目録作成を飯田市歴史研究所の協力を得て進めてきたが、文書量が予想以上に膨大で、その整理と分析に時間がかかった。さらに、委託撮影をはじめたものの、撮影すべき史料が膨大であり、経費の見通しがつきにくく、他の文書群の撮影に手を広げることができなかった。また、浪合村千葉家文書については、協力は得ることができているが、所蔵者側の都合により、今年度は調査を全面的に行なうことができなかったため、これまで収集している史料の整備を行なうにとどめた。とはいえ、当初予定していたタイプと対極にある部奈家文書の調査・分析を行なったことから、逆に本研究目的に掲げた家々の意識をより鮮明に考察する契機を得ることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画の骨格は変更しないが、重点的に扱う対象の比重を信濃国から山城国革嶋家、甲斐国依田家・井尻家に移してゆく。ただし、『熊谷家伝記』の翻刻・校訂作業や、熊谷直遐の記述した系図や家伝記を伝える家々の所在調査・史料収集作業は継続して行なう。それぞれの史料群についての分析方法は当初の予定どおり、下記の点に留意して行なう。(1)16世紀末から17世紀に至る各家の兵農分離過程、そして近世における社会的位置を、一次史料を用いながら具体的・実証的に明らかにする。その際、戦国期の主家との関係、家来との関係、そして在地との関わりに留意しながら検討する。(2)「牢人・郷士・地侍」身分の獲得と、代替わりごとの継承を、史料的に検証する。(3)武家への仕官運動、および公家家臣としての補任状獲得運動とその論理を明らかにする。(4)系図・家伝記が作成された契機など外的要因に加えて、当主の日記や書簡を検討することにより、作成者の内的な要因を考察する。(5)系図・家伝記作成のために参照した周辺地域の系図・家伝記や、縁戚関係のある家々に残された系図・家伝記などの記録類を調査・収集・分析する。(1)~(5)を踏まえ、総合的に系図・家伝記を読み解き、「牢人・郷士・地侍」層の兵農分離に対する認識を考察し、(1)主家を失い、村に住み「百姓」として近世領主の支配を受けることを受け入れることができなかったこと、(2)たとえ一旦は、近世領主の支配を受入れ、「牢人」身分となっても、また「郷士・地侍」として名主(庄屋)を勤める道を選択したとしても、外的・内的要因により常に身分に対する疑問が噴出したこと、(3)最終的には、「主家」を持つこと=「侍」となるという共通の志向性を持つことになった点を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2011年度の経費のうち、繰越分については、当初予定したものの資料調査を行うことのできなかった、熊谷直遐の作成した家伝記を所蔵する長野県や愛知県への調査旅費と写真撮影関係費用と、『熊谷家伝記』の翻刻・校訂作業の謝金に用いる。とくに、熊谷直遐の記した書簡や系図・家伝記などの記述史料を調査・収集し、下伊那地域における「侍」を志向する家の身分意識と、地域社会との関係について考察する。そのために、史料情報収集のために、自治体誌や史料集などの図書購入費が必要となる。 また、2012年度の研究計画により山城国革嶋家文書の収集を京都府立総合資料館にて行い、革嶋家とその一族の家、身分意識を検討する。府立総合資料館の史料収集は、業者委託での紙焼きでの収集となるため、焼き付け費用が必要となる。さらに、国文学研究資料館史料館に所蔵されている甲斐国依田家・井尻家文書の閲覧・史料収集を行なう。
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Research Products
(9 results)