2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520813
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
岸本 覚 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (80324995)
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Keywords | 藩祖 / 神格化 / 長州藩 / 薩摩藩 |
Research Abstract |
本年度は、薩長両藩の関係資料調査のため、山口県下関市図書館、山口県文書館で調査、一方熊本県域の南朝顕彰に関わる史跡や熊本藩関連のものも収集するため熊本県立図書館や関連史跡を調査した。また、高野山奥院の大名家供養塔などの調査を実施し、全藩的な崇敬をもつ高野信仰の位置づけについても考察した。これらの調査で藩祖神格化と神仏祭祀両方の動きが確認できた。 薩摩藩の調査については、『鹿児島県史料』を取り寄せて調査を実施しているところで、原文書調査は来年度に延期したがおおむね順調に進行している。薩摩藩は、島津忠久だけでなく、幕末期には照国神社(島津斉彬)や他の藩主も神格化をとげているため、その点も考察の対象に含めなくてはならず、工夫が求められる。 方法論的な方向性としてはフランスの非キリスト教化運動の研究や神仏分離をめぐる研究整理を実施中である。ようやく著書は読み終えたが、論点整理など時間を要するため、来年度にその成果をまとめていくつもりである。 諸藩の藩祖研究の成果として本年度は、「研究余録 池田家の歴史と地域社会」(『日本歴史』773、2012年10月)pp95ー104を作成した。ここでは、藩祖の事績をどのように認識していたのかを、地方のレベルでの動向に注目した。藩の祖先をめぐる顕彰は、決して武士層だけの問題ではなく、地域におけるネットワークへの視点も重要であることを論証した。昨年度に引き続き、鳥取地域ならではの祖先顕彰の視点もできる限り明らかにし、薩長両藩との比較対象として蓄積していくつもりである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由は以下の三点である。 一つは、調査先の山口県(長州藩)関係の調査の成果を蓄積しつつあることである。長州藩は本藩である萩藩と、支藩である長府・徳山藩そして岩国藩の四領域を対象としているが、本藩だけでなく長州全藩的な動向も視野に入れた方向に研究は進みつつある。また、今年度は明治政府の国家祭祀・寺社政策の資料収集も開始し、薩長両藩等との関係を検討しはじめたところで次年度以降継続する予定である。とくに支藩においても本藩と同様な顕彰が行われている長州藩は注目される。一方で、薩摩藩の実態がなかなかつかめない点もあり今後の調査の進展が必要である。 二つには、理論的な側面をフランスの研究事例と今までの研究の蓄積のなかから、調査全体の枠組みがしだいに明らかになってきたことである。とくにSuzanne DesanIthaca “Reclaiming the sacred : lay religion and popular politics in revolutionary France”, N.Y. : Cornell University Press , 1990(『聖なるものを取り戻す』翻訳なし)には、地域性を重視した分析方法が取り込まれておりそうした点を日本の神仏分離と祖先顕彰に持ち込めるのではないかと考えている。 三つ目には、鳥取藩の事例をつけ加えることでより多様な祖先顕彰のあり方を模索することができる方法をつくっていることである。今後も、鳥取だけにとどまらず進めていく必要があろう。
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Strategy for Future Research Activity |
課題としては、前年度、キリシタン問題との関係、思想家や仏教・僧侶との関連、より広い諸藩の事例収集を掲げた。キリシタン問題については、思想関連へのアプローチのなかでもう一度考察していくつもりであり、今年度長州藩調査のなかで蓄積していきたい。資料的な状況から考えて、長州藩がもっとも適当な藩と考えられる。 仏教については月性などの著書を分析しているが、まだ十分ではなく、むしろ国学者近藤芳樹のほうがかなりクリアーな分析が可能であると考えている。近年の井上智勝氏の指摘も踏まえつつ、研究を進めていきたい。 ほかの事例の集積は、鳥取藩についての成果をまとめつつも、現在岡藩(大分県)などの事例にも注目している。大藩だけでなく中小藩の祖先顕彰も目を配っていく必要があるためである。この点は今後の調査先にも生かしていく予定である。 今年度の成果や課題と組み合わせて考えてみると、今後の研究の進め方は、まず長州藩関係調査とその分析の深化である。思想や本支藩関係のなかでの祖先顕彰のありようを詰めることでその藩の特質とその多様性を見ることが可能となるであろう。次に、幕末維新期の神格化については、対キリシタン問題は避けられない。とくに思想的な側面には十分注意を払う必要がある。今後は浦上キリシタン問題を視野に入れつつのその課題にアプローチしていくつもりである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)薩長両大名家における神仏分離と藩祖祭祀の調査。薩摩藩関係史料の調査を継続し収集史料の整理・分析を実施する。今年度の予定調査地は、薩摩・島津家関連資料を有する鹿児島大学附属図書館等である。また長州藩は、支藩(長府・岩国)の史料を長府博物館長府毛利家文書、岩国徴古館所蔵吉川家文書、吉川史料館所蔵吉川家文書などを通じて調査する。このなかで藩祖祭祀の変容に関わる儒学・国学者との思想的関係の検討を始める。 (2)長州藩の戦没者追悼研究。大村益次郎に関する史料収集であるが、今回招魂社関係の調査として浜松の神主関連の調査も視野にいれたい。そのため、山口市歴史民俗資料館所蔵大村益次郎文書および東京都の国立国会図書館および国立公文書館の調査も実施したい。 (3)明治政府の国家祭祀・社寺政策の整理。24年度に引続き、九州地方の旧領主神社創建に関する史料の収集も図る。調査予定地は九州大学黒田家文書、大分県竹田市(竹田市歴史資料館、同市図書館)、そして福井県大野市や金沢市の近世史料館などである。 (4)方法論的な学習と研究交流。24年度に引続きフランス革命の専門家との研究会を実施する。今年度は、日本における近代宗教史研究の現状と課題について議論し、フランス革命期との比較を行う。
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Research Products
(1 results)