2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520814
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
本多 博之 広島大学, 文学研究科, 教授 (30268669)
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Keywords | 銀流通 / 幕藩制市場構造 / 戦国時代 / 豊臣政権 / 物流 / 流通経済 / 石見銀山 / 西国大名 |
Research Abstract |
本年度も、昨年度と同様に当該研究に必要な専門図書のほか、自治体史・史料集を補充・整備した。特に本年度は、中世紀行文の分析による流通・交通の実態解明もおこなったので、関連図書を購入した。また、史料収集のための出張調査も東京大学史料編纂所や山口県文書館、そして広島県立歴史博物館で実施し、原文書・影写本・謄写本・写真帳の閲覧のほか、マイクロリーダーによる影写本複写をおこなった。このうち、山口県文書館では博士課程(前期・後期)に在籍する大学院生4名を引率し、新たに公開が始まった史料群を中心に、閲覧と写真撮影、情報の記録を実施した。 具体的な作業としては、まず一昨年10月に広島で開催されたシンポジウムで報告した内容を「戦国豊臣期の政治経済構造と東アジア」の論文にまとめ、公開した。その内容は多岐にわたるが、物流を支える「人」に焦点を当て、多様な身分や生業をもち、広域的に経済活動を行う戦国期の商業勢力(商人的領主)のあり方と、豊臣政権における存在形態について比較検討し、銀の生産・流通を画期とする戦国・豊臣期の政治・経済の構造的変化を東アジアの視点で論じた。 また、戦国期の物流そのものを構成する経済拠点と「モノ」の流れの実態について山陰地方を対象に分析し、その成果を島根県立古代出雲歴史博物館で報告、講演した。さらに、16世紀後半の物流の展開に大きな影響を与えた銀の社会浸透と、統一政権や諸大名のもとで生じた銀の環流状況の検討をふまえ、一昨年7月に学会報告していた信長政権期の貨幣状況について、「織田信長政権期京都の貨幣流通」の論文にまとめ、発表した。 そのほか、毛利氏領国(特に防長)を対象に、貨幣流通の実態と大名の領国支配、流通・交通や商業都市(山口・防府・赤間関・長府など)を分析し『山口県史 通史編 中世』の中で論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、昨年度の成果をふまえ、すでに収蔵史料の概要が判明している史料保存機関に加え、京都・大阪方面の歴史資料館を訪ね、所蔵・保管史料の情報を得るとともに、関連史料の閲覧・筆写を実施した。具体的な作業内容としては、昨年度に引き続き、豊臣政権期の大坂や京都・伏見で実施された作事・普請に動員された西国大名の動向や材木・榑など資材の輸送状況、大名領国内での資材調達・動員がわかる史料を検索し、閲覧・筆写した。 また、今年度は特に中世の紀行文に注目し、その歴史資料としての活用をめざして南北朝期から豊臣政権期まで関係史料を収集、陸・海の交通路や宿駅・港町の状況や人々の動向について具体的に分析・検討した。さらに、一昨年から開始した「兵庫北関入船納帳」に登場する船籍地のうち、備讃瀬戸以西の港の一部について国土地理院発行の地形図と現地調査によって中世の海岸線を推測する作業を継続し、西国の中世遺跡のうち貿易陶磁器が比較的多く出土する15~16世紀の遺跡を選び、搬入経路(海運・河川水運・陸運)について分析した。 そのほか、応仁・文明の乱後の在京守護の動向や公家の下向事例を整理し、京都および周辺都市群の経済発展の様相や流通ネットワークの形成状況について継続的に分析を試みた。加えて、地方の流通経済拠点の状況を具体的に明らかにするため、瀬戸内海沿岸部(主に安芸高崎・忠海・竹原)や島嶼部の港湾の景観復元の前提となる史料を収集し、分析した。 以上をふまえ、予定した作業内容に対し、現在までの達成度はおおむね順調と思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、昨年度に引き続き関係図書の購入を継続するほか、東京大学史料編纂所・内閣文庫などで史料調査を実施し、必要史料については写真複製資料として購入する。また、史料収集のための出張調査を山口県文書館のほか、吉川史料館や大阪城天守閣で実施する。なお、今年度は名古屋大学文学部所蔵の「真継文書」と厳島神社の「厳島野坂文書」「巻子本厳島文書」の閲覧・写真撮影を計画している。 内容的には、上半期までは前年度までの研究方法を引き続き実施し、史料保存機関への採訪調査を継続して実施し、今後も引き続き調査が可能なように、環境整備に努める。具体的には豊臣政権期の中央と地方の関係を確認するため、京・大坂と各地の城下町との人的な結びつきや交流、「モノ」の流れ、中世経済拠点の消滅、そして藩域の成立によって新たに生まれた物流について分析を進めたい。さらに、各方面で進めていた作業の調整を図りながら、研究の総括に向けた作業に着手する。そして、中近世移行期における西国の物流の史的展開について、得られた結果を取りまとめ、学会や論文、あるいは公開講座を通して成果の発表をおこなう予定である。 また下半期には、首都市場圏の歴史的展開を探るため、大坂本願寺のマチ構造や応仁の乱後の京都再生の具体的な過程を確認するとともに、豊臣政権期に登場した新たな求心的市場構造について分析するために、京・大坂における作事・普請の状況と、そのための資材搬入の状況について収集史料をもとに整理し、研究の総括をおこないたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度と同様、専門学術書のほか自治体史・発掘調査報告書などの関係図書や、地図(地形図・地籍図)および写真複製資料を購入する予定である。また、関係論文については大学図書館を通じ複写請求して入手し、参考文献の蓄積を継続しつつ分析を進める。加えて、研究最終年度にあたるため、成果報告をおこなう機会が増えると思われるので、それに必要な各種機材の購入を予定している。これらが「消耗品費」の使途である。 次に、戦国期の地域経済拠点(港湾・宿・市)の空間構成を復元するために、各地の自治体史や国土地理院の地形図を持参して現地調査を実施するほか、現地の自治体教育委員会の文化財担当職員の協力を得て小字名や寺社・領主館など旧跡についての情報を入手する。そして、まだ活字化されていない古文書・古記録類について、写真撮影もしくは筆写するための出張調査をおこなう。これらが「旅費」となる。 さらに、収集史料の整理、パソコン入力によるデータベース化の作業には、主に大学院生を中心とする学生の協力を得ることになるので、「謝金」をそれに充てたい。このほか論文や報告書の作成のための複写・印刷費を、「その他」の項目から支出する予定である。
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